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清水雅彦の映画評

第0004回 (2005/03/25)
『ローレライ』〜「娯楽のフジ」がこの程度では……

【ストーリー】
第2次世界大戦末期の1945年8月、アメリカ軍により広島に原爆が投下された。これに対して海軍軍令部の朝倉大佐(堤真一)は、さらなる原爆投下を阻止するために、ドイツ軍から接収した伊507潜水艦を出撃させる。乗組員は、艦長・絹見(役所広司)ほか、航海長・木崎(柳葉敏郎)、特殊兵器ローレライ・システムの秘密を知る軍属技師・高須(石黒賢)、特殊潜航艇・N式潜の正操舵手・折笠(妻夫木聡)など約70名の寄せ集め。実はこのローレライ・システムとは、ドイツの人体実験により特殊能力を開花された日系ユダヤ人少女・パウラ(香椎由宇)が起動する探信音波不要の水中探索装置だったのだ。アメリカ軍の出撃拠点・南太平洋のテニアン島に向かう途中、長崎にも原爆が投下される。首都・東京を標的とした第3の原爆投下を阻止するため、伊507は最後の闘いに挑む……。


【コメント】
本作品は、フジテレビ&東宝「プレゼンツ」の映画です。制作は『踊る大捜査線』プロデューサーの亀山千広、監督は『ガメラ 大怪獣空中決戦』特技監督の樋口真嗣、原作は『亡国のイージス』作者の福井晴敏、画コンテ協力は『新世紀エヴァンゲリオン』監督の庵野秀明。他の出演者には、橋爪功、伊武雅刀、鶴見辰吾、阿川佐和子などもおり、海上自衛隊や早稲田大学も協力、文化庁が支援しています。作品プログラムの「イントロダクション」には、「想像を超えたストーリー展開と驚愕の映像」「ダイナミックな活劇と重厚な人間ドラマ」「ハリウッド大作を凌駕する潜水艦エンターテイメント」の文字が踊ります。

しかし、ハリウッドには到底及ばない映画です(期待せずに見に行きましたが)。映画で取り上げている第2次世界大戦の「非道」はアウシュビッツと南方の飢餓と原爆だけ。日本のアジア侵略の「非道」は出てきません。福井晴敏はローレライ・システムで「第2次世界大戦のファンタジー化」を試み、ハリウッド映画に対抗する唯一の手段として「ガンダム色」を入れたといいます。その結果が「超能力」ですか。亀山千広を除けば中心的なスタッフは60年代世代。しかし、CGは安っぽく、臨場感がありません。この世代の戦争映画はこの程度なのでしょうか。思想的に問題のあるハリウッドの戦争映画でさえ、「戦争の現実」くらいは伝わってきますが、これでは内容も画像もテレビゲーム感覚です。

さらに、香椎由宇にはドイツ語指導がついているのに、わずか二言のドイツ語も「え?」という感じで、片言の日本語が数日でしかっりしてくる不自然さ。彼女が歌う「モーツァルトの子守歌」も歌手・ヘイリーによるもの(『オペラ座の怪人』は俳優自ら歌っているぞ!)。また、役所広司は本作品プログラム掲載インタビューで、「国を守るため、家族を守るため、日本の未来を守るために戦った男たちには感動しました」と語る始末(あなたは、ブッシュ大統領? それとも小泉首相? 「やくどころ・ひろし」とはいえ、もう少し映画を選んでほしいなー)。出演俳優もこの程度です。

今、ライブドアVSフジテレビの闘いが展開されていますが、この中でフジ側から「公共性」や「言論」などの言葉が出てきたことにはビックリ。それをいえるのは「ジャーナリズム」としての報道機関であって、権力翼賛報道が目立つフジサンケイグループがいえる言葉ではありません(ニッポン放送の労組の代わりにある社員の組織名の「いちご会」というのもすごいですね)。堀江貴文ライブドア社長の意図はよくわかりませんが、批判精神のない報道機関より情報の垂れ流しの方が「まだまし」だったりするかもしれません。報道に期待できないとしても、「娯楽のフジ」ならもう少し上質の作品を作りましょうよ。



2005年日本映画
監督:樋口真嗣
配給:東宝
上映時間:2時間8分
全国上映中
http://www.507.jp/index.html

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