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清水雅彦の映画評

第0005回 (2005/04/08)
『サイドウェイ』〜「ピーク」を過ぎた後の人生考

【ストーリー】
小説家志望でワイン好きの学校教師・マイルス(ポール・ジアマッティ)は、結婚を1週間後に控えた女好きの旧友ジャック(トーマス・ヘイデン・チャーチ)と、カリフォルニアのワイナリーを巡る旅に出た。2年前の離婚から立ち直れず、書き上げた小説もなかなか出版には至らない不器用でダメなマイルスと、落ちぶれたとはいえテレビタレントとして人気を博していた過去を武器に女性を口説きまくる起用で脳天気なジャックとの珍道中記。二人は道中、マイルスの顔なじみのウェイトレス・マヤ(ヴァージニア・マドセン)とワイナリーに勤めているマヤの知り合い・ステファニー(サンドラ・オー)とも行動を共に。ジャックの結婚を祝う旅は、マイルスが自身を見つめ直す旅に変わっていき……。


【コメント】
私事で恐縮ですが、甥っ子と姪っ子に「お兄ちゃん」と呼ばせていても、実年齢もしっかりと「おじさん」である私にとって、他人事ではない話です。独身で非常勤講師の身ですから、マイルスの自棄や落胆ぶりに笑いつつ、笑えないわけです。「ピークを境にワインはゆっくり坂を下りはじめる。そんな味わいも捨てがたいわ」(マヤ)とささやかれてしまってはね。生まれた時は無限の可能性がある赤ん坊でも、時間が経つにつれて砂時計の砂が減るように可能性もなくなっていく。ある時点で、若い頃に抱いた夢や希望が叶わないという「現実」に向き合うべきだし、それが悪いことではないという話だからです。

しかし、映画のメッセージに引きずり込まれそうになりつつ、冷静に考えてみたいです。肉体的なピークはあっても、人生のピークは必ずしも一律に年齢と共にやってくるわけではありません。私は到達目標を決めて人生を送ってきたわけではないし。高校3年の時でも後に自分が嫌いだった法学部に進学するなんて想像しなかったし、マスター1年の時には別の世界に進むつもりだったのでドクターに進学するなんて想像しなかったし、ドクター1年の時には今のように授業や講演、法律雑誌に執筆をしている姿を想像しませんでした。私にとって法学系大学教員は人生の目標ではないし、結果的にこういう方向に進んでいるからにすぎませんから(しかも、「法律家の世界」が実は嫌いだったりもする・笑)。

あと、映画で不満な点が二つ。一つは、人物の描き方で、アジア系女性のスティファニーが白人男性のジャックに遊ばれ、ジャックが一番幸せになっていること。サンドラ・オーは、実生活ではペイン監督の妻とはいえ、このような描き方は結局白人優位主義が刷り込まれている結果ではないでしょうか。もう一つは、真面目な男と女好きの男との旅を経験しても、かたや『モーターサイクル・ダイアリーズ』のチェ・ゲバラは後に革命家になっていくのに、マイルスの方は新たな恋の始まり(の予感)で終わる。この二作品を比較するのは酷でしょうが、社会・世界の問題よりは異性・家族の問題というこの違い。

とはいっても、この映画自体は全般的によくできています。私は不満は残りますが、アメリカ的な発想からするとアカデミー賞脚色賞受賞もうなずけます。マイルスの前妻への情けない未練、彼女の結婚を知った時や小説が出版されないことを知った時の暴れっぷり、一方でジャックが道中の不倫がばれて逃げてくる様など、しんみりさせたり、笑わせたりと。映画を見た後、ワインを飲みたくなるし、旅に出かけたくもなります。車のタイヤも交換したことだし、勝沼へ行って来ようかな(でも、一人では「珍道中」にならんぞ!?)。



原題:SIDEWAYS
2004年アメリカ映画
監督:アレクサンダー・ペイン
フォックス・サーチライト提供、20世紀フォックス配給
上映時間:2時間10分
http://www.foxjapan.com/movies/sideways/

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