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清水雅彦の映画評

第0011回 (2005/06/03)
『ベルリン、僕らの革命』〜「お前たちはきっと一生変わらない」

【ストーリー】
ベルリンの若者、ヤン(ダニエル・ブリュール)とその親友・ピーター(スタイプ・エルツェッグ)とピーターの恋人・ユール(ジュリア・ジェンチ)。ユールは多額の借金返済のために、高級レストランでウェイトレスとして働く日々。ある日、ユールは、ヤンとピーターが金持ちの留守宅に忍び込んでは、盗みなどをしない一方、家具などを並べ替えて、「ぜいたくは終わりだ」などのメッセージを残していく今世間を騒がせている「エデュケーターズ(教育者)」であることを知る。そこで、借金の返済相手(追突したベンツ所有者の会社重役)の豪邸にも侵入することに。翌日、忘れ物をとりに再侵入すると、家主のハーデンベルク(ブルクハルト・クラウスナー)と鉢合わせに。3人はハーデンベルクを誘拐し、人里離れた山荘で奇妙な共同生活が始まる。その生活の中で、3人はハーデンベルクが1968年学生運動の幹部で、ブルジョアの誘拐も企てたことも知ることになり……。


【コメント】
ヤン役は『グッバイ、レーニン!』主演のダニエル・ブリュール。監督は、取り壊しの決まった住宅に不法占拠して住み着き(「住宅占拠運動」)、警官隊に排除された経験を持つ1970年生まれのハンス・ワインガルトナー。この監督が、今のブルジョア社会を変える力があるにもかかわらず、大人しく飼い慣らされている若者へメッセージを発するために作った映画です。「エデュケーターズ」のメッセージ、「ぜいたくは終わりだ」が原題。

映画では、東南アジアの搾取工場廃止を求めるユールたちの活動、車内で無賃乗車の貧しい老人を排除しようとする男たち、リキュール・グラスで出されたブランデーにケチをつける高級レストランの客、年収340万ユーロの金持ちに対する借金返済で若い女性の8年間を奪うことなどを描くことで、世の矛盾を提示していきます。ゲバラのTシャツが売り物になる今の消費社会批判も痛烈。一方で、ユールの金持ちに対するささやかな「復讐」に思わずスッキリしてしまいますし、不安と恐怖を与える「エデュケーターズ」の「闘い方」も興味深い(「資本主義のブタ」「ブルジョアの論理」などのセリフも、三角関係も若い!)。ラディカルだけどユニークな政治映画であり青春映画です。

ところで、日本でも60年代末に「団塊の世代」が学生運動を展開しましたが、当時の活動家は今何をしているのでしょうか。まだ政治運動に関わっている人もいれば、お行儀よく就職して、管理職になって、すっかりブルジョア化している人も多い。後者の人たちは「転向」した人もいるでしょうが、最初から思想などなくただ付和雷同して暴れていた人たちは「転向」でも何でもない。時代の波に乗ることにたけていただけです。

もう一つ、現在の話。平和や人権のために活動しているある団体のことですが、総会後の懇親会費が約1万円。大学教員の場合、学会時などの懇親会費は専任教員と非専任(院生・非常勤講師)で差をつけることが多く、専任の費用も高くて5千円程度です。それに対して、この団体は弁護士会員が多いためか(大学教員と異なり、懇親会費も経費で出せるからか、所得が高いからか)、所得の低い会員への配慮が足りないわけです。人によっては、経費で地方観光と贅沢な飲み食いをしているともいえます。高い理念は自己満足、実態はブルジョアではと思いたくもなります(なお、この団体は日民協ではありません)。

映画の話に戻しますが、4人の共同生活は世代間交流や三角関係もあり、3人の若者に理解も示すハーデンベルク。結局、最後はどうなるかは見てのお楽しみです。



原題:Die Fetten Jahre sind vorbei(The Edukators)
2004年ドイツ・オーストリア映画
監督:ハンス・ワインガルトナー
配給:キネティック、コムストック
提供:カルチュア・パブリッシャーズ、コムストック、キネティック
上映時間:2時間6分
渋谷Bunkamuraル・シネマにて上映中
http://www.bokuranokakumei.com/

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