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清水雅彦の映画評

第0076回 (2006/11/23)
『トゥモロー・ワールド』〜SF作品を通じて現代社会と政治に警告を発する

原因もわからず、人類に子どもが生まれなくなって18年が経った2027年。希望を失った人々は各地でテロや内戦を引き起こし、国々が次々に崩壊。警察と軍隊による治安強化と移民・難民の隔離でかろうじて治安を維持していたイギリスだが、各地でテロや暴動が絶えない。そんな中、政府官僚のセオ(クライヴ・オーウェン)は、反政府組織FISHに拉致された。アジトでは、元妻のジュリアン(ジュリアン・ムーア)から通行証の入手を求められる。彼女は、妊娠した移民の少女キーを新しい社会構築のために活動している世界組織「ヒューマン・プロジェクト」に届けようと計画していたのだ……。

本作品の監督は、『リチャード・ニクソン暗殺を企てた男』を製作し、『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』監督のアルフォソン・キュアロン。原作はイギリスのミステリー作家P.D.ジェイムズの『The Children of Men(邦題:人類の子どもたち)』。

結局、「ヒューマン・プロジェクト」の実態がよくわからないことや、ストーリー展開の点ですっきりしない部分がありますが、本作品の設定と「未来社会」の描写が大変興味深い映画です。環境ホルモン、大気汚染、電磁波(子どもが携帯電話の虜になる日本社会は恐ろしい)、薬物摂取などなど、原因不明ながら子どもが誕生しない社会というのがなんだかリアル。現に日本では少子化が進んでいます。実際には子育て負担の大きさが理由とはいえ、女性が未来に希望を抱けなくなった結果のようにも思えます。

また、映画の中のテロ(政府側の自作自演も臭わす)や暴徒も大変リアル。警察と軍隊による移民・難民弾圧シーンではアフガン戦争・イラク戦争で米英軍が行ったことを、反政府勢力と政府軍との戦闘シーンではパレスチナでイスラエル軍が行ったことを再現しているようでもあり、画面に引き込まれます。特に最後の方の6分間を越えるワンショットでの戦闘シーンは、観客にも緊張と恐怖を強います。監督は本作品のテーマを「21世紀における新種の独裁政治」「民主主義という独裁政治」と言っています(映画パンフレット・インタビュー)が、現代社会と米英の政治を批判した映画ともいえます。

2006年アメリカ・イギリス映画、上映時間:1時間49分、全国各地で上映中
http://www.tomorrow-world.com/

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