清水雅彦の映画評
第0078回 (2007/01/05)
『007/カジノ・ロワイヤル』〜なぜ「賞賛」できるのか、不思議だ
イギリス諜報機関MI-6のジェームズ・ボンド(ダニエル・クレイグ)は、自分の判断で殺人可能な「00」(ダブルオー)に昇格する。最初の任務は、世界中の「テロリスト」の資金源となっているある人物を突き止めること。遂にその人物、ル・シッフル(マッツ・ミケルセン)を探し出したボンドは、モンテネグロのカジノ・ロワイヤルでポーカーをすることに。シッフルの破産が狙いだ。賭け金をボンドに提供するイギリス財務省は、彼の監視役としてヴェスパー・リンド(エヴァ・グリーン)を派遣し……。
本作品は、映画『007』シリーズの21作目で、イアン・フレミング原作小説の1作目。ダニエル・クレイグが6代目ボンドとして初登場し、脚色にポール・ハギスも加わります。映画の最初の方で、エクストリーム・スポーツのバルクールを生みだしたセバスチャン・フォーカンの鮮やかな「逃走劇」に目が釘付けになります。
ところでこの映画評では、私が見た映画全てについて書いているわけではありません。基本は、「この映画を賞賛又は批判したい・すべきだ」という観点から取捨選択しています。そういう意味で、本作品は取り上げるに値しない作品だったのですが、新聞などの映画評で本作品が結構「賞賛」されているので、取り上げることにしました。
例えば、「今度のボンドは屈折し、皮肉っぽく、時に感情的になり、衝動に走る。ケガもするし、愛に傷つく生身の人間だ」「甘ったるい007に飽きた方にぜひおすすめしたい」というものもありました(稲垣都々世「007 カジノ・ロワイヤル 破天荒な6代目に興奮」朝日新聞2006年12月7日夕刊)。確かに、従来のボンドと違って、あまり軽薄ではなく、悩む姿も印象的。しかし、娯楽映画とはいえ、住居侵入、盗聴、殺人(他国大使館内でも)など国内法・国際法違反のオンパレード。国家のスパイ組織による違法行為の数々に、とても「生身の人間だ」とか、「破天荒」「興奮」などといえるものではありません。娯楽作品と考えても、長すぎるポーカーゲーム・シーンは退屈なだけです。
2006年イギリス・チェコ・ドイツ・アメリカ映画、上映時間:2時間24分、全国各地で上映中
http://www.sonypictures.jp/movies/casinoroyale/
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