清水雅彦の映画評
第0079回 (2007/01/07)
『麦の穂をゆらす風』〜アイルランド自由国軍批判の視点もあるラディカルさ
イギリスの支配下にあった1920年のアイルランド。デミアン(キリアン・マーフィー)たちが、アイルランドのスポーツであるハーリングをしたところ、それを禁じるイギリスの武装警察「ブラック・アンド・タンズ」に尋問され、英語名ではなくアイルランド名を名乗った17歳の少年が虐殺される。その後、デミアンは兄テディ(ポードリック・ディレーニー)と共にアイルランド独立を目指すアイルランド共和軍(IRA)の武装闘争に参加。激しいゲリラ戦の後、遂にイギリス軍は撤退し、アイルランドと講和条約を結ぶ。しかし、アイルランドを英連邦の自治領とするその内容に、条約賛成派と反対派との内戦に突入。賛成派のテディと反対派のデミアンも対立することになり……。
本作品はイギリスの巨匠ケン・ローチによる作品で、2006年カンヌ国際映画際パルムドール賞を受賞しました。主要なキャストはキリアン・マーフィーはじめアイルランド出身者で、IRAの武装闘争などアイルランドの独立戦争と内戦を描いたものです。
イギリスではこの作品について「反英国映画だ」との批判も多いといいます。確かに、「ブラック・アンド・タンズ」によるアイルランド人への暴行・放火・拷問・虐殺などのシーンは、イギリス人なら見たくないでしょう。ケン・ローチもカンヌ映画祭授賞式で、「この映画が、英国が帝国主義の過去と対峙するための、小さな第一歩になればいい」「英国の占領軍が今、無理やりそして不法にどこを占拠しているのか」と発言したように、彼の意図は過去と現在の侵略国家イギリスの批判にあるといえるでしょう。
しかし、さらにこの映画はよりラディカルな視点もあります。観客にアイルランド自由国軍(条約賛成派)がイギリス軍と同様の行為をするシーンを見せることで、権力を掌握した者の欺瞞性を暴きます。また、デミアンの気高い意思も感じさせます。そして最後にテディとデミアンは……。やはりこの映画を見て思うのは、朝鮮民族から言葉も奪ったかつての日本を、なぜ著名な日本の映画監督が映画にできないのかということです。
2006年アイルランド・イギリス・ドイツ・イタリア・スペイン映画、上映時間:2時間6分、シネカノン有楽町などで上映中
http://www.muginoho.jp/
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