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 国民審査のための最高裁判事紹介  
2003年10月16日

2005年度の国民審査詳細ページはこちら
ご注意:この紹介ページは2003年度のものです。

 10月に衆議院が解散され、11月9日に総選挙が行われることが必至の情勢となっている。社会の関心もそれに集中しているが、同時に行われる最高裁裁判官の国民審査も劣らず重要である。

1 国民審査とは

 最高裁の裁判官は憲法上内閣が任命するが、この任命を国民が審査することになっている(憲法79条2項)。かって佐藤内閣が、公務員・旧公共企業体職員のストライキ権をめぐる判決を変更させるために「タカ派」を続々と任命し、ついに逆転に成功したように、「憲法の番人」たる最高裁裁判官の任命は重要な政治的行為であり、国民の監視が必要である。アメリカでは、最高裁判事は大統領が指名し上院の承認を得るシステムになっているので、セクハラ疑惑が問題とされた1991年のトーマス判事のときのように、公開の場で適性が徹底的に論議される。ドイツの憲法裁判所の裁判官は連邦議会と連邦参議院で各政党の推薦により選出されるが、3分の2の多数の賛成が必要であるため、一党に偏ることはない。
 国民審査は事後的ではあるが、内閣の任命を審査し、不適格な裁判官を罷免することのできる、国民に与えられた現在唯一の手段である。投票所で配られる国民審査の投票用紙に「この最高裁判事をやめさせたい」と思ったら、名前の上に×を記入する。×が有効投票の過半数になると罷免されるのである。

2 審査される裁判官はどんな人

 今回は9人の判事が審査対象となっている。参考のために、これらの人の任命前の経歴、任命後の関与判決等について、簡単に紹介しておこう。
 裁判官・検察官を含めた官僚出身者が当初の8人から10人に増えており、最高裁の判断が行政追随になる一因にもなっている。

3 投票に当たっての注意

 投票所で配られる国民審査の投票用紙に「この最高裁判事をやめさせたい」と思ったら、名前の上に×を記入する。何も書かないと「信任」と見なされ、×以外の○や△などを書くと無効になる。これまで、国民審査の意義や審査対象者についての必要な情報が十分に提供されてこなかっため、判断を留保して何も書かずに投票する有権者が多い。これが現在の手続きでは、すべて信任と同じように扱われており、積極的な信任率は明らかにならない。棄権もできるので、判断を留保したい人は、投票用紙を受け取らないか係員に返せばよい。

深澤 武久(ふかざわ たけひさ)

 69歳 第1小法廷 
 2000年9月14日任命

 1957年中大法学部卒。司法修習13期。61年弁護士(東京弁護士会)、東弁副会長、日弁連理事、司法研修所刑事弁護教官、東弁会長,日弁連副会長、法務省人権擁護推進審議会委員、法制審議会委員などを歴任。
 遠藤光男氏の後任として最高裁入り。
 日独裁判官物語の制作支援のよびかけ人の一人。陪審制については「司法の民主化のためには望ましい制度」、法曹一元については「理念としては正しいが、条件整備が必要だ」との見解を表明。
 最高裁では、裁判長として、鹿児島県知事大嘗祭参列事件で合憲判決。公職選挙法違反・戸別訪問禁止祝事件で、合憲判決。判決理由の告知もせず、救援会から批判。ホテルの部屋を捜索する際、令状を示す前に部屋に合鍵で入っても合法とする決定。新潟の女性監禁事件につき、東京高裁の併合罪の量刑に関する限定説を破棄、一審の懲役14年を支持。群馬司法書士会事件判決では反対意見。
 小作地に対する宅地並み課税により固定資産税等の額が増加したことを理由として小作料の増額請求をすることは出きないとした大法廷判決で、反対意見。全税関神戸損害賠償訴訟(差別を否定)で、反対意見。

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濱田 邦夫(はまだ くにお)

 67歳 第3小法廷
 2001年5月1日任命

1960年東大法学部卒。司法修習14期。62年弁護士(第二東京)、ハーバード・ロー・スクール卒、二弁副会長、日弁連常務理事、日弁連外国弁護士対策委員会委員長、法制審議会国際私法部会委員,国際法曹協会(IBA)ビジネス法部会理事、環太平洋法曹協会初代会長を歴任。
 元原利文氏の後任として最高裁入り。
 国際的な金融取引契約にかかわる「渉外」が専門。一般の訴訟事件はあまり手がけたことがない。歯に衣期せぬ物言いが特徴。日弁連では、外国弁護士否定・日本弁護士増員派として論陣を張った。外国債発行についての専門論文もある。バブル崩壊後は、山一証券の外国資産整理や日本債券信用銀行の常勤監査役など、破たん金融機関の処理にかかわった。
 最高裁判決が行政寄りの傾向にあると指摘したうえで「経済社会を活性化させるには司法の本来の機能を回復させる必要がある」と強調。司法制度改革については「50年に一度のチャンスと受け止めている。司法の機能を回復することで日本の再生を図ろうとする司法制度改革審議会の視点は支持できる。」と語った。
 最高裁においては、裁判長として 、大分県知事の「抜穂の儀」出席に合憲判決。大年寺山公園訴訟で、オンブズマンがした監査請求の成立を認めた仙台高裁判決を破棄。産業廃棄物最終処分場建設をめぐる業者と自治体の行政訴訟に、周辺住民の補助参加を認める決定。ゴルフ場会員権業者がなした預託金返還請求事件につき、弁護士法73条に違反するとはいえないとして、高裁判決を破棄差戻。
 小選挙区比例代表並立制下で実施された2000年6月の衆院選につき、格差違憲の反対意見。

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横尾 和子(よこお かずこ)

62歳 第1小法廷 行政官(旧厚生省)出身
2001年12月19日任命

 1964年国際基督教大教養学部卒。同年厚生省入省、90年官房審議官、92年老人保健福祉局長、94年社会保険庁長官、96年退官、医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構理事長、98年アイルランド大使などを歴任。
 大出峻夫氏の後任として最高裁入り。
 女性として歴代2人目。夫は警察庁官僚(元神奈川県警本部長)、1男1女の母として子連れ出勤の苦労も味わい、女性の自立や老人福祉などの問題を担当。社会保険庁長官は事務次官に次ぐ地位で、女性の就任は初めて。
 少数意見を書いた事件はない。
 裁判長としては、豊田商事国賠訴訟で被害者側の上告を棄却。日本生命と住友生命が自民党などにした政治献金にかかわる代表訴訟で加入者側の上告を棄却。埼玉県所沢市産の野菜がダイオキシンに汚染されていると「ニュースステーション」で報道されたため、野菜価格が急落したとして、同市の農家がテレビ朝日に損害賠償と謝罪を求めた訴訟で、10月16日に言い渡される判決では、「報道の主要な部分は真実」として農家側の請求を退けた一、二審判決を見直すものと見られ注目される。

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上田 豊三(うえだ とよぞう)

 66歳 第3小法廷
 2002年2月21日任命

 1961年東大法学部卒。司法修習15期。63年判事補、行政局付,東京地裁判事、経理局主計課長、総務課長、司法研修所教官、同事務局長、上席調査官、総務局長、首席調査官、東京地裁所長、広島高裁長官、大阪高裁長官を歴任。
 千種秀夫氏の後任として、最高裁入り。
 40年近い判事生活のうち、約半分は司法行政に携わった。法曹一元については制度の導入に慎重な見解。「裁判員制度」の導入については「非常に魅力的だと個人的には思うが、実現のためには国民の理解と負担に対する覚悟が必要だ」と述べた。東京地裁時代は、行政部に所属し、「第一次教科書訴訟」高津判決に関与。調査官としては、千葉県議会議員の議員定数訴訟などを担当。
 最高裁では、住民監査請求の1年ルールを不適用として住民を勝訴させた02年7月2日判決に関与。
 裁判長としては、柳美里『石に泳ぐ魚』出版差止事件で、「人格権に基づく出版差し止めは表現の自由を定めた憲法の規定に違反しない」と上告棄却。「関釜裁判」では、韓国人女性らの上告棄却。盗難通帳で銀行預金を引き出された事件で、全額の返還を銀行側に命じた逆転判決。社員の特許・オリンパス訴訟で、「社員は、会社が決めた額に縛られずに対価を求めることができる」とし会社側の上告棄却。公取委記録開示訴訟で、住民に記録を閲覧謄写できる権利を初めて認める判決。

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滝井 繁男(たきい しげお)

 66歳 第2小法廷
 2002年6月11日任命

 1961年京大法学部卒。司法修習15期。63年弁護士(大阪弁護士会)、大阪弁副会長、大阪府建設工事紛争審査会委員、日弁連研修委委員長、法制審議会民事訴訟法部会委員、最高裁民事規則制定諮問委員会委員、大阪弁会長・日弁連副会長、日弁連法科大学院設立・運営協力センター委員長を歴任。
 河合伸一氏の後任として最高裁入り。
 法制審では新民事訴訟法の制定作業に携わった。就任時の記者会見では、「裁かれる立場から裁判所を見てきた経験を役立てたい。」「国民が司法行政をどのように見ているかについて配慮があってしかるべきだ」と述べた。
 大阪空港騒音訴訟弁護団の副団長、未熟児網膜症訴訟の患者側代理人、元料亭経営尾上縫の破産管財人など数多くの重要訴訟を担当。『逐条解説 工事請負契約約款』『論点新民事訴訟法』など多くの著書がある。
 最高裁においては、裁判長として、商工ローン「日栄」の保証料は、「利息制限法の脱法行為」とした判決。江沢民中国主席が早大で講演した際、出席予定の学生名簿を、大学側が警視庁に提出したことはプライバシー侵害で不法行為となるとの判決。
 国籍法3条の規定は、「違憲の疑いが濃い」との補足意見。非嫡出子(婚外子)の法定相続分差別は憲法14条に違反するとの反対意見。健康診断でがん見落としにつき「担当医に責任なし」とした判決で反対意見。外国人の刑事被告人との、法廷内でメモのやりとりを検閲することは特段の事情がない限り違法だと指摘する反対意見。

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藤田 宙靖(ふじた ときやす)

 63歳 第3小法廷
 2002年9月30日任命

 1963年東大法学部卒。同年東大法学部助手、東北大法学部助教授、同教授、同法学部長、行政改革会議委員、国土審議会委員、情報公開審査会委員、中央教育審議会専門委員(大学分科会)などを歴任。
 奥田昌道氏の後任として最高裁入り。
 行政法専攻。法学博士、東北大学名誉教授。『西ドイツの土地法と日本の土地法』で日本不動産学会著作賞。『第三版行政法T(総論) 』『行政組織法』など多数の著作があり、そのリストは本人のHPで見ることができる。
 96年から98年にかけて、行政改革会議の委員を務め、省庁再編の青写真作りに携わった。
「国立大学法人化」の制度設計者。主導的論文を発表。
 就任の記者会見では、「裁判所は従来にも増してアカウンタビリティー(説明責任)を課せられている。そのことを絶えず頭におきたい。」現在の行政訴訟制度は「少数のエリートが行政の判断をする」という時代の産物で、十分機能していない、「適切な行政判例の形成に努めるのが、私の最低限の任務だ」と決意を述べた。
 最高裁においては、裁判長として、兵庫県篠山町が戦没者の遺族に線香やろうそくを配ったことは違法でないとの判決。京都府城陽市が日本最古級の古墳保存のため、一帯を先行取得した土地開発公社から鑑定額を超える額で購入しようとしたことにつき、支出の差し止めを求めた住民訴訟で、訴えは不適法と判断し、住民側勝訴の大阪高裁判決を破棄。

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甲斐中 辰夫(かいなか たつお)

 63歳 第1小法廷
 2002年10月7日任命

 1962年中大法学部卒。司法修習18期。66年検事。札幌地検公安部長、東京地検、官房営繕課長、最高検検事、東京地検次席検事、東京高検次席検事、横浜地検検事正、最高検刑事部長、東京地検検事正、高松高検検事長、次長検事、東京高検検事長を歴任。井嶋一友氏の後任として最高裁入り。
 第一線の検事として活動。東京地検では、連合赤軍事件や三島由紀夫の割腹自殺事件など主に公安事件を担当。特捜部の在籍経験はない。東京地検次席時代はオウム真理教事件や薬害エイズ事件、住専事件など多くの捜査を指揮、しばしば記者会見に登場した。東京協和・安全信組の貸付に関する山口敏夫代議士の背任事件、中尾栄一・元建設相汚職事件などを指揮。東京高検検事長時代には、鈴木宗男議員の逮捕許諾請求に関与。
 東京地検次席時代、麻原公判に関して、弁護人の態度は、裁判の引き延ばしを図ろうとするものだと強い調子で批判。オウム事件の当番弁護士になったミランダの会の弁護士が、取調拒否を指導したとして違法な問題行為だと発言。
 最高裁では、裁判長として土地賃貸借契約の中に賃料を自動増額する特約があっても、借地借家法に基づいて賃料減額を求めることができるとして、東京高裁判決を破棄。固定資産税の時価を上回る評価額を違法とする判決。

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泉 徳治(いずみ とくじ)

 64歳 第1小法廷 裁判官出身
 2002年11月6日

 1961年京大法学部卒。司法修習15期。63年判事補、ハーバード・ロー・スクール。人事局任用課長、東京地裁判事、調査官、秘書課長、民事・行政局長、人事局長、事務次長、浦和地裁所長、事務総長、東京高裁長官などを歴任。
、山口繁氏の後任として、最高裁入り。
 司法官僚のエース。東京地裁時代は、行政部で多数の行政事件に関与。国鉄新大井駅の新設にかかる住民訴訟では、住民勝訴の判決。司法研究報告書として、『租税訴訟の審理について』をまとめている。調査官時代は、行政室で、サラリーマン税金訴訟や伊達火力発電所訴訟などを担当。人事局長時代に神坂直樹修習生の任官拒否に関与。事務総長としては、司法改革に対する最高裁意見の取りまとめに当たった。法曹一元は基盤整備が先としつつ、漸進的改革の立場。
 最高裁では、裁判長として、労災就学援助費の不支給決定は、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるとして、高裁判決を破棄した判決。
 婚外子の相続分差別は、憲法14条に違反するとの反対意見。

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島田 仁郎(しまだ にろう)

 64歳 第1小法廷
 2002年11月7日任命

 1962年東大法学部卒。司法修習16期。64年判事補、ロンドン大学留学、刑事局付、大阪地裁判事、司法研修所教官、調査官、刑事局一課長、東京地裁部総括、刑事局長、東京高裁判事部総括、司法研修所長、仙台高裁長官、大阪高裁長官を歴任。
 藤井正雄氏の後任として最高裁入り。
 刑事畑で、在外研究報告『英国刑事裁判法』や共編著『令状基本問題』などがある。名古屋地裁時代に、長すぎる裁判に免訴の判決をした高田事件一審判決に関与。東京地裁時代は、「ロス事件」の裁判長を初公判から務めた。最高裁のHPでは,裁判員制度について、特に意見を掲載している。
 最高裁では、裁判長として、町の新庁舎完成式の来賓に、町内だけで使える5千円相当の商品券を記念品として配ったのは違法ではないとした判決。非嫡出子(婚外子)の法定相続分差別は、明白に違憲とは言えないが、違憲の疑いは濃く、法改正が可能な限り速やかになされることを強く期待するとの意見。

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