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伊藤和子のNYだより

第0008回 (2004/12/12)
国連の改革の行方は…?

みなさん こんにちは。伊藤和子@NYです。
 ご無沙汰しています。NYは今年は暖冬らしくて、あまり寒くありません(^^) 
 クリスマスが近づくNYはまだ、ブッシュ再選の影響が強く、から元気を出していても鬱、という人が結構多いですね。
街を行く人たちもみんなそれぞれこの国の将来に不安を感じているようです。こんなフツーの市民の反応は一般的ですね。http://www.cafeglobe.com/lifestyle/machi/index.html

■新ブッシュ政権の面々■

 再選後すぐに始まったファルージャ攻撃については本当に言葉になりません。選挙結果が即大量虐殺に結びついてしまい現在に至っています。
 新ブッシュ政権の体制も大問題です。「愛国法」をつくって、政権にプロテストする人、テロリストと疑われる人を片っ端から逮捕していたアシュクロフト司法長官が辞任したのですが、後任がまた最悪。「ジュネーブ条約はアルカイダ・タリバンには適用されない」と言い張って、アブ・グレイブやグアンタナモでの拷問を推進したA級戦犯のような人間・ゴンザレス氏が司法長官になったのです。拷問を認めたメモ類は機密だったのが公開に追い込まれ、誰が何をやったか、はっきりしているのに、責任者が司法長官になってしまう、というのは、驚きでした。
 上院の法務委員会の共和党の委員長が「裁判官の選考にあたっては、中絶の問題を絶対のリトマス試験紙とはしない」(中絶容認派だからといって一律に拒絶しない)と発言したところ、党内から「リベラルすぎる」と言われ、委員長ポストを失う、というようなことまであるので、「いったいこの国の司法制度は…?」と、驚いています。
 ブッシュ政権内で、「the reality-based community」 -現実に基づいて思考する集団-(恐ろしいことに、事実・現実を客観的に指摘する勢力はネガティブな評価を受けていたらしい)と言われていた中心人物のパウエルが辞任し、政権は益々、「faith-based 」(信仰に基づく)側近たちの比率が高まっていて(NY times)、宗教的直感に基づく政権運営が進む気配です。破滅に向かうどこかの新興宗教団体のようですね。

■国連とブッシュ政権の闘い■

 そんな現政権が最近熱心に動いている問題に、経済制裁下のイラクでの制裁緩和策「オイル・フォー・フード」をめぐる国連の汚職問題解明があります(この話自体私はあまり詳しくないのですが)
 国務省は国連の汚職を徹底的に調査するんだ、と言っていますが、アナン事務総長は国連内の立ち入り調査を拒否。
 国務省は怒って「アナン事務総長は辞任すべきだ」と言っていますが、アナン事務総長は辞任しそうにありません。
 アナン事務総長は、「 イラク戦争は違法だ」と言い切り、ファルージャ攻撃の中止を求める書簡を米英に送った人物。アメリカはこの邪魔物を何とか追い落としたいようです。
 国連は、シェラレオネやコンゴに数千のピースキーパーを送っているのに、1月の選挙を控えたイラクにはセキュリティを理由に7人の選挙監視員(11/14段階ですが)しか送っていないのが現状で、アメリカが勝手に設定している「イラク法廷」(フセインを裁く)にもエキスパートを送るなどの協力を全くしない、これにアメリカは苛立っています。
 徹底してアメリカの占領政策に非協力的なわけですが、「アナンは国連憲章違反の武力行使をすれば国際社会からどのようなリアクションがあるか、という教訓を長い時間かけて米国に与えようとしている、一種の仕置きである」という見方が有力です。

■国連改革■

 イラク戦争をめぐって揺れ続けている国連が、ついに抜本的な国連改革に向けて動き出しました。
 11月29日に専門家集団が長い時間をかけて作成した「High- level Panel onThreat」という、今後の集団安全保障体制の枠組みに関する文書が国連総会に提出され、今後国連で具体化が議論されることになります。
 100頁くらいあるのですが(例によって私はゼミの教授から「明日までに読んでくること」と言われ必死で目を通したのですが)大変興味深い包括的な文書です。このレポートは、国連ができて60年経つのに、いつまでたっても戦争がなくならない、特に大国が国連憲章を公然と無視して武力行使をしていることに対する強烈な危機感のもとに、作成されています。
 NYtimesなどではかなり話題になっていますが、日本ではあまり知られていないかもしれません。
 割合よいことを言っているところもある反面、かなり容認しがたい部分も含まれています。
 ちょっと硬い話になりますが私が気がついたのは以下のような点です。

  1. まず、問題なのは、国連安保理の決議を経ないイラク戦争を正面から批判している一方で、ユーゴ空爆の政治的正当性、アフガン攻撃の国連憲章上の正当性を認める示唆をしている点です。

  2. 次に、安保理改革このままいくと日本は本当に安保理常任理事国入りです。
     レポートでは、2020年までに安保理の抜本的な改革を行う、との提案が出されました。 安保理改革には2案ありますが、有力な案は、安保理事国現在の15から24に増やすというもの。
     既存の安保理常任理事国5カ国はそのままで、拒否権を持たない常任理事国を6カ国増やす、非常任理事国を3カ国増やす、ということになっています。アジアでは二カ国と言われていますが、GNPが重視されるので、今回の報告がそのまま進めば、日本は当選確実と言われています。日本政府の猛烈なロビーイングが成功したようです。5大国が拒否権を行使するなど、これからも波乱が予想されますが、注意して見ていったほうがいいですね。 また、レポートでは、5大国の拒否権を抑制するように勧告しています。

  3. かなり大きな問題として、国連憲章51条の解釈があります。
     レポートでは、51条の「自衛権」の解釈として、差し迫った危険のある場合は、攻撃を受ける前に先制的自衛権を行使できる(他の手段がなく均衡性がある場合に限る)と明確に認めて先制的自衛権に道を開いています。
     他方、差し迫った危険があるといえないイラク戦争のような場合は、自分で勝手に自衛権だと主張して攻撃をはじめるべきではない、国連安保理に話を持ち込んで、危険性を立証して承認を得る必要がある、というガイドラインを提案しています。

  4. 国連安保理による措置(憲章7章)については、現在より早い段階から適切な手立てを打つことが必要だ、ということが強調されています。また、安保理審議の透明化も課題になっています。

  5. 一方、なかなかよいことを言っている部分もあります。
     まず、安全保障を包括的に捕らえた点-貧困がテロの温床となり紛争の温床となる、ということを訴え、国際社会がこの問題に取り組むべきだ、としている点は「人間の安全保障」に近いアプローチを取っていて、とても共感できる部分です。
     「私たちが何を守ろうとするのか、は私たちの価値観にかかわる。国連憲章は全ての主権国家を保護する、それは国々が善であるからではない、全ての国がその市民に対して尊厳、正義、普遍的価値と安定を保障しなければならないからである」という価値観を鮮明にしているくだりがあるのですが、「テロ国家」とレッテルを貼った国の国民を蹂躙し続けているアメリカの戦争と異なる価値観を明らかにしている点で少し感動しました。

  6. レポートは、安保理事会に対して、国際刑事裁判所を活用することを支持すべきだ、と提案しています。アメリカは今、自国の戦争犯罪訴追を恐れて、国際刑事裁判所を全く無視している状況ですので、この提案は重要だと思います。

  7. それと、私としてはとても気になるのが、平和に対する最大の脅威として掲げられている兵器の問題です。
     核軍縮については、当然ながら強い勧告をしていますが、注目なのは、核・生物・化学兵器と並んで、radiological weapons--放射能兵器が掲げられていることです!

 破壊力は通常兵器と変わらないし、放射能の影響はごくわずかだが、住民の避難と汚染除去が必要なので、その地域の経済・社会上の損失が大きい、と解説しています。劣化ウラン弾もこの中に当然含まれるわけで、核生物化学兵器と並んで位置づけられたことは重要な第一歩です(^^)
 ただ、核生物化学兵器に関する部分と違って、何の具体的な提言もされていない、というのが残念なところですが…(ちなみに米政府は自分は劣化ウランを使うくせに、テロリストが劣化ウランで攻撃してくることにとっても脅えているらしく、しかし公然と問題にしにくい、というジレンマにあるようです)。
 来年には、紛争の平和的解決をめぐる、国連・NGOの会議が開催され、専門家提案をたたき台に議論がされる予定ですが、専門家の提案は提案として、是非市民の側でいろんな提案が出るといいなあ、と思っています。 国際社会の方向は国連の会議室で決まるものではなくて、紛争で一番苦しむことになる世界の市民がつくるもの。
 来年に向けて、国連をプラットフォームにして平和をめぐる議論が展開されることを期待しています。
 私も来年約半年間、国際民主法律家協会(IADL)という国連NGOの代表資格で国連の会議に参加できることになりました。
 国連の様子もお伝えしていきたいと思います。

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