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清水雅彦の映画評

第0006回 (2005/04/20)
『クライシス・オブ・アメリカ』〜アメリカ政治の闇を撃つ

【ストーリー】
1991年、「湾岸戦争」下のクウェートで、マルコ大尉(デンゼル・ワシントン)らは偵察任務に就いていた。突然、イラク軍の攻撃を受け、マルコは頭を強打し意識不明に。その間に、ショー軍曹(リーヴ・シュレイバー)が部隊を救い、彼は名誉勲章を授与される。ショーは帰国後、上院議員である母・エレノア(メリル・ストリープ)の後ろ盾を受けて、政界に入る。そして、当初、有力な副大統領候補であったジョーダン上院議員(ジョン・ヴォイト)に対して、「テロ対策」の違憲性を訴える「弱腰」では選挙に勝てないとのエレノアの主張が通り、「戦争の英雄」であるショーが副大統領候補となる。一方、悪夢にうなされていたマルコは、自分と同じ悪夢にうなされているかつての部下の訪問を受ける。曖昧な記憶に疑問を抱きはじめたマルコは、自ら調査に乗り出し……。


【コメント】
『羊たちの沈黙』『フィラデルフィア』のジョナサン・デミ監督が、リチャード・コンドン原作作品を映画化した『影なき狙撃者』(ジョン・フランケンハイマー監督、1962年)を現代的にリメイクしたのが本作品です。ただし、冷戦下の共産主義者による洗脳の話を、現代の政界と巨大企業による洗脳という形に設定を変えて(映画の宣伝コピーは、「全ては、あなたの知らないところでコントロールされている!」)。

この映画は現代政治の色々な恐ろしさを伝えています。「戦争の英雄」のでっち上げ。軍需産業の大統領選挙への介入。人体に埋め込んだマイクロチップなどハイテク技術による洗脳。息子を溺愛する母親とマザコンの息子という政治家親子(メリル・スリープ演じるこの母親がなかなかすごい)。一方、現実の政治では、大統領選挙で「戦歴」が強調され、いかがわしい企業が「でっち上げの戦争」で利益をあげ、「衝撃的な映像」(「9・11事件」など)や「嘘の情報」(「イラクの大量破壊兵器保有疑惑」など)で人々を誘導し、「バカ息子」が大統領になり……。そうです、この映画は現代アメリカ政治批判の映画なのです(日本にも部分的には当てはまるでしょう)。

『遠い夜明け』『マルコムX』『フィラデルフィア』『タイタンズを忘れない』『ザ・ハリケーン』など、アフリカ系として差別や人権問題など「役を選ぶ俳優」として、私はデンゼル・ワシントンを評価してきました。最近では『タイム・リミット』であまりに軽薄な不倫警察官を演じていてがっかりもしましたが、今回は「彼らしい」役柄でホッとしました。また、この映画で頼もしいのは、FBIが「正義」を追求していること(最後の方で、ちょっと問題のあることをするのですが)。デンゼル・ワシントン主演の『マーシャル・ロー』でも、FBIが「テロ」取り締まりで行き過ぎのあった軍人を逮捕します。

翻って、日本では政界や財界の陰謀を暴き、警察がそのような悪と戦う映画を作れるでしょうか。豪華俳優が何人もこういう映画に出るでしょうか。もちろん、全くないわけではないとしても、上質の「娯楽映画」として製作するのは難しそうです。しかも、このような日本の映画事情の反映か、本作品が日本国内では数館でしか上映されないのも残念。まだまだ日本映画はアメリカ映画にかないません。



原題:The Manchurian Candidate
2004年アメリカ映画
監督:ジョナサン・デミ
UIP配給
上映時間:2時間10分
ユナイテッド・シネマ系で上映中
http://www.coa-movie.jp/

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