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清水雅彦の映画評

第0008回 (2005/05/05)
『郵政クビ切り物語―4・28処分と郵政職場』〜郵政版『人らしく生きよう』

【ストーリー】
職場をよくしようと思って労働組合(全逓)のたたかいに参加した。そうしたらクビになった。20代だった。その後、全逓からも見捨てられた。それでも「おかしいことはおかしい」と26年間闘っている郵便屋さんがいる。いっぽう職場は今、民営化を目前に強制配転・深夜勤務・トヨタ方式の導入などで、過労死さえも出ている。また、ゆうメイトと呼ばれるアルバイト職員は、簡単に解雇される。クビを切られた郵便屋さんとその仲間たちは、リストラと労働者イジメを許さず闘い続ける。

「4・28処分」とは
長年にわたる当局の差別政策に苦しんでいた全逓信労働組合(全逓・当時18万人)は1978年12月〜1979年1月に、「差別と合理化は許さない」と全国の郵便局で闘った。郵政史上はじめて年賀状配達が大幅に遅れる事態となった。これに対して1979年4月28日郵政省が行ったのが、61人の首切りを含む8183人の大量処分だった。懲戒免職(首切り)は組合役員ではなく東京の若い一般組合員に集中した。政府自民党の圧力をバックにした組合つぶし攻撃だった。その後免職者たちは、闘争終結を理由に全逓からも追い出されたが、そのうちの7名は「自立自闘」を合言葉に現在も闘いつづけている。
(映画宣伝チラシより)


【コメント】
本作品は、国鉄分割民営化に対する労働者の闘いを描いた『人らしく生きよう―国労冬物語』を制作した佐々木有美さん・松原明さんによる「郵政版」の作品です。ここでは、当局から首を切られ、組合からも見捨てられた名古屋哲一さんや池田実さんたちの長い闘いを丹念に追っています。昨年6月に、東京高裁で彼らの勝訴判決を勝ちとりますが、当局の姿勢は変わらず、闘いは現在も進行中です。

映画の中では、全国的な強制配転や深夜勤労働、局によって行われている「トヨタ方式」の導入(座り作業から立ち作業への変更など)や配達員の「非常勤化」(正職員は対面配達に限定し、通常の配達業務は全面的にアルバイト・短時間職員に行わせる)の実態も描いています。郵政省時代からの合理化、その後の公社化、そして今後の民営化に向けての動きの中で、多少は職員の労働強化についての「知識」はあったのですが、映画によって知らない「現実」を目の当たりにし、「ここまで進んでいるのか」と思わされました。

以前(90年代)、全逓委員長(その後、民主党国会議員に)が政府審議会のメンバーに入っていることを見て(政府寄りの政策提言と世論作りを行ういわゆる「審議会政治」)、「全逓もここまで来たか」と思ったことがありますが、映画を見るともっと早くから全逓には問題があったようです。全逓幹部ではなく現場の組合員に対する当局の処分も卑劣ですが、組合の闘争方針に従って闘争に参加したこれら組合員を平気で見捨てる組合本部も醜悪(映画の中に出てくる「権力の手先」として振る舞う中間管理職の姿も醜い)。全逓の御用組合化が、総評・社会党解体の流れと重ねて理解することができます。

私がこの映画を見たのは、4月28日の東京上映会の時でしたが、当日は制作者・出演者の挨拶もありました。名古屋さん・池田さんの人柄にも心を打たれましたが、マスメディアが伝えない「事実」を伝える佐々木さん・松原さんの仕事にも敬意を表したいと思いました。国鉄分割民営化の一つの帰結が尼崎での大量死傷事故ですが、郵政改革の帰結は誤配・職員の自殺・郵便局の削減などでしょう。今後の郵政改革の動向に注意すると同時に、これまで郵政の職場で何があったのかも見ておく必要があります。



2005年日本映画
取材・構成:佐々木有美・松原明
企画・制作:ビデオプレス
上映時間:1時間8分
今後の上映日程については、ビデオプレス(03-3530-8588)まで
http://homepage3.nifty.com/videopress/

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