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清水雅彦の映画評

第0015回 (2005/07/07)
『ベアテの贈りもの』〜憲法24条という種をまいた女性とその後の話

【ストーリー】
岩手県紫波町の野村胡堂・あらえびす記念館を訪れたベアテ・シロタ・ゴードン。ここには、父レオ・シロタの「ペトルーシュカ」のレコードがあった。ベアテはこのレコードを聴き、そして父のこと、一家での戦前の日本生活のこと、戦後GHQの日本国憲法草案作成スタッフとして起草作業に関わったことなどについて講演を行う。憲法の中に女性の色々な権利を規定しようと奮闘したベアテだが、人権委員会で大幅に削除されつつも、憲法24条の夫婦・両性の平等規定と、憲法14条の性別による差別禁止規定は残った。ベアテは帝国議会で憲法公布にも立ち会い、アメリカに戻る。その後、ベアテは沈黙を守るが、日本ではこの憲法理念の実現を目指し、多くの女性が奮闘し……。


【コメント】
本作品は、日本国憲法24条制定の裏で奮闘したベアテさんの活躍と、その後の男女平等を求めて闘ってきた日本女性を描いた作品です。この映画評を読まれるような方々なら、ベアテさんのことを説明するまでもないでしょう。映画は、ベアテさんのユーモアあふれ、優しい人柄を感じさせる講演を挟みながら、主に資料映像でまとめたベアテさんによる憲法制定作業までと、資料映像と当事者のインタビューから構成される戦後の日本女性の奮闘ぶりの二部構成でまとめられています。

前半部分では、なぜレオ・シロタ氏が東京音楽学校(現東京芸術大学)の教授となり、17年間も日本に滞在することになったのかがよくわかり、興味深いものでした。また、後半部分では、労働省の初代婦人少年局長の山川菊栄さん、各地の婦人少年室長経験者、東大法学部入学女性第一号の藤田晴子さん、女性解放運動家の市川房枝さん、市川房枝記念会関係者、日本初の「婦人大臣」中山マサさん、雇用機会均等法制定に関わった赤松良子さん、民放で定年までアナウンス部で頑張った宇野淑子さん、一部上場企業初の女性取締役になった石原一子さん、自治労初の女性書記長・植本眞砂子さん、大企業の女性処遇格差是正訴訟の元原告、国連難民高等弁務官を務めた緒方貞子さんなど、戦後の日本女性の地位向上に奮闘してきた女性たちに、ベアテさんがまいた種を咲かす姿を見ました。

一方で、この映画は一部女性学関係者からは必ずしも評価が高いものではありません。「エリート女性の成功物語」「一般女性の運動の紹介が少ない」「本題からはずれる描写は不要」との声もあります。私自身は、ベアテさんのことを知らない人も見ることを想定して、憲法24条に込めたベアテさんの思い(戦前の日本女性の置かれた状況など)をきちんと描いてほしかったと思います。また、女性学の草分けの一人として、和光大学の井上輝子さんが登場しますが、井上さんは松本智津夫被告の娘の入学拒否問題で学部長として決定を下した人物なので、このような「本物の平等論者」ではない人を登場させていることはどうかと思いました(女性差別に反対するなら、出自・レッテルによる差別にも反対すべきで、学部長という立場上決定を下さざるをえないのであれば、役職を辞すのが本物です)。

憲法24条自体の大きな問題としては、一人のアメリカ人女性の奮闘によって制定されたこと、すなわち、日本人の手によって24条が勝ちとられたわけではないことは肝に銘ずべきです。とはいっても、24条の問題を考えるきっかけとして、この映画は制定過程とその後の女性の活躍を描く点でいい題材になるとは思います。私自身、院生の時にベアテさんの講演を聞き、その人柄にひかれ、著書『1945年のクリスマス』にサインまでいただいてしまいました。ベアテさんはたまに日本で講演をされていますが、まだベアテさんの話を聞いていない方には、是非、直接講演を聞いていただきたいと思います。映画もそうですが、ベアテさんから心地よい刺激とエネルギーをもらえます。



2004年日本映画
監督:藤原智子
製作:「ベアテの贈りもの」製作委員会、日本映画新社
上映時間:1時間32分
今後の上映日程については、下記のホームページ参照
http://www.geocities.jp/michocop/

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