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清水雅彦の映画評

第0017回 (2005/07/26)
『宇宙戦争』〜「テロと重なる理不尽な恐怖映画」でいいのか?

【ストーリー】
港湾労働者のレイ(トム・クルーズ)は、離婚したマリー(ミランダ・オットー)が現在の夫と出かけるため、息子のロビー(ジャスティン・チャットウィン)と娘のレイチェル(ダコタ・ファニング)を預かることになる。その直後に、街全体が黒雲に覆われ、激しい雷がいくつも落ちる。レイが街の様子を見に行くと、地中から突然巨大な戦闘マシーンが現れ、人々を容赦なく焼き殺していった。この異星人が操作するマシーン・「トライポッド」は地球上に何体も現れ、人類への容赦ない攻撃を開始したのだ。シールドに覆われたマシーンに対して、軍隊の反撃は無力。レイはロビーとレイチェルを連れてひたすら異星人の攻撃から逃げ続ける。ロビーと別れた2人が逃げ込んだ建物の地下室では、異星人と闘おうとするオグルビー(ティム・ロビンス)をレイは殺し……。


【コメント】
本作品は、1898年に発表されたH・G・ウェルズ原作の『宇宙戦争』(日本語版は創元SF文庫)を映画化したものです。映画化に際して、大きくは場所を現代のアメリカに置き換え、その他細部の変更もありますが、3本足の戦闘マシーンや、「赤い植物」、人間の血を吸う異星人、主人公による殺人、ある意味あっけない結末などの大枠は原作に沿っています。そして何より、ジョージ・パル製作の『宇宙戦争』(1953年)と比較すると、当然技術の進歩により安っぽさはなくなり、リアルな映像を見せつけます。

ウェルズには帝国主義批判の視点がありましたが、スピルバーグの視点は、上空からの攻撃に逃げまどう民衆や、ジャンボ機の墜落など「9・11事件」をイメージさせる映像に表れています。彼自身、作品プログラムのインタビューの中で、「9・11事件」や「イラク戦争」が下地にあることを認め、「この映画では、歴史上、一度も難民になったことのないアメリカ国民を難民に変えてしまう」と語り、「家族を愛することが、他国で戦争することよりもはるかに重要だということを分かって欲しい」とまで述べています(プログラム12頁)。だから、原作とは異なり、娘との避難という設定にしたのでしょう。

そのため、「9・11事件」を「世界には人知の及ばぬ闇と絶望があり、その前で人は震えるしかない」と捉え、本作品に「理不尽な死の恐怖と重み」を読みとる映画評が出てきています(柳下毅一郎「宇宙戦争 テロと重なる理不尽な恐怖」朝日新聞2005年7月7日夕刊)。しかし、果たしてそうでしょうか。今私たちが目にする欧米などでの「テロ」には理由があり、「理不尽」とはいい切れない部分があります。「テロリスト」を生み出す国や社会が「『人知』の及ばぬ闇」? 私たちは「震える『しか』ない」? 「テロ」の原因を真摯に探求し、根本にある問題を解決していけば、「テロ」は防げるはずです。この評者の表現には、想像力と問題意識の欠如を感じさせます。

確かに、スピルバーグの「闘うな! 逃げろ!」というメッセージは、一種の反戦メッセージとして意味もあります(とはいえ、原作がそうとはいえ、自分たちが助かるために殺人までしていいとは思いませんが)。しかし、この第7回のコラムでも触れたとおり、彼の映画には「限界」があり、中途半端さもあります。「テロ」には原因があり、「テロリスト」とは言葉が通じますし、自然の摂理で破滅する相手でもありません。本当に「対テロ戦争」を批判するなら、正面から「テロ」の要因となっているアメリカの経済的繁栄と軍事戦略に切り込む映画を制作してもらいたいものです。



原題:War of the Worlds
2005年アメリカ映画
監督:スティーブン・スピルバーグ
提供:パラマウント映画・ドリームワークス映画
配給:UIP
上映時間:1時間57分
全国各地で上映中
http://www.uchu-sensou.jp/top.html

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