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清水雅彦の映画評

第0023回 (2005/08/13)
『あした元気にな〜れ!〜半分のさつまいも〜』〜これも伝えるべき戦争体験

【ストーリー】
小学生のかよ子(声・上戸彩)は、東京の下町で父母、祖母、4人の兄弟と幸せに暮らしていた。しかし、太平洋戦争開始後はかよ子一人が沼津のおばの家に疎開することに。1945年3月10日、東京は米軍の大空襲に襲われ、数日後、沼津に兄のきさぶろうがやってくる。自分以外の家族6人全員が死んだことを伝えに。戦争が終わり、かよ子は中野のおばの家で暮らすことになるが、兄はおばの家を出ていったまま、行方知らず。おばはかよ子に冷たくあたる。そんな時、かよ子はおばとおじがかよ子の実家跡地を売り渡す話を聞いてしまう。かよ子はおばの家を飛び出し、兄を探している内に浅草で再開。しかし、戦災孤児たちのリーダーとして闇市で商売をしていた兄は、かよ子の一緒に暮らしたいという願いを断り……。


【コメント】
本作品は、作家・エッセイストとして活躍する海老名香葉子さん原作の『半分のさつまいも』(くもん出版)を映画(アニメ)化したものです。主人公のかよ子の声はドラマ・CMなどで大活躍の上戸彩さん、ナレーションは吉永小百合さん、主題歌の作詞は海老名さんと谷村新司さんで作曲は谷村さん、そして林家正蔵さんほか林家一門が色々な声役で作られているというなかなか「豪華」な作品です。映画の冒頭では、海老名さん自身が登場し、二度と痛ましい戦争がないことを観客に訴えかけます。

このコラムでも紹介した『ガラスのうさぎ』と異なり、本作品では戦争中よりは戦後の話が中心で、戦争が終わっても戦災孤児として「生きるための戦争」の大変さを描きます。しかし、両作品にいかに共通する話が多いことか。米軍による無差別殺傷の酷さもそうですが、戦後の食糧不足、戦災孤児の生活、預けられた先でのいじめ……。この2作品の原作者に限らず、同じような経験を多くの人がしたということです。そして、肉親を亡くし自殺も考えながら、生きる決意をして生き抜いていった。

今年は敗戦60周年。この節目の年に、あらためて先の戦争を考える映画が相次いで作られていることは大変意義深いと思います。どうしても年が経てば、戦争経験者は徐々に亡くなっていく。平和憲法がありながら、自衛隊が海外に派兵される時代だからこそ、戦争体験者にはそれぞれの『ガラスのうさぎ』や『あした元気にな〜れ!』という自身の体験を後世に語り継いでほしいと思います。本作品を観た時も、夏休み中ということもあり劇場内には親子連れが多く、映画上映はうまくいっているようです。

また、本作品では売れっ子の上戸彩さんが声優を務めています。彼女は週刊金曜日8月12日・19日合併号の「わたしと憲法」シリーズのインタビューにも登場し、「戦争に反対」とはっきり語っている。日本の場合、欧米と違ってタレントなどが人気を気にして政治的発言をしたがらない傾向があります。そういう中で、若い彼女のようなタレントがこのような映画に関わり、雑誌で発言することは貴重だと思います。

一方、戦争と平和の問題を真剣に考え、発言するマイケル・ムーア監督らをかなりレベルの低いやり方でコケにする(批判にもなっていない)『チーム★アメリカ』のなんとレベルの低いことか。このような映画の批評もできず、「アナーキズムの権化」と言ってしまう映画評論(柳下毅一郎「チーム★アメリカ/ワールドポリス 主義主張も笑い倒す」朝日新聞2005年8月9日夕刊)のレベルも問われます。

それはともかく、『ガラスのうさぎ』に続いて、この映画でも私は涙が出てしまいました。この節目の年の夏に、2作品の鑑賞を是非薦めたいと思います。



2005年日本映画
総指揮:綾部昌徳、総監督:中田新一
製作:「あした元気にな〜れ!」製作委員会
後援:社団法人日本ユネスコ協会連盟、朝日小学生新聞
上映時間:1時間30分
東京都写真美術館ホールほかにて上映中
http://www.ashita-genki.com/

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