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清水雅彦の映画評

第0024回 (2005/08/18)
『ターネーション』〜自己と家族の崩壊を救うパーソナル映画

【ストーリー】
ヒューストンで暮らすアドルフ(・デイヴィス)とローズマリー(・デイヴィス)は、レニー(・ルブラン)を生む。その後、美しいレニーはモデルとして活躍し、結婚。しかし、レニーは事故で精神分裂症となり、2年間にわたる電気ショック療法でさらに病状が悪化、離婚。レニーはジョナサン(・カウエット)を生むが、精神病院の入退院を繰り返し、一方、ジョナサンは里親から虐待され、離人症となる。心と体のバランスを失う中、ジョナサンは映画や演劇、ゲイ・カルチャーの世界へのめり込む。さらに、レニーから離れニューヨークでボーイフレンドのデヴィッド(・サニン・パス)と暮らし始め、幸せを獲得する。そんなある日、レニーが治療のためのリチウムを過剰摂取し、中毒になったとの知らせを受け……。


【コメント】
本作品は、監督・編集・主演を務めるジョナサンが、『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』のジョン・キャメロン・ミッチェルに俳優オーディション用ビデオを送ったところ、それが目に留まり、『エレファント』(コロラド州コロンバイン高校銃乱射事件を、マイケル・ムーアとは全く異なる淡々とした手法で描くこの映画は、是非DVDで見てほしいと思います)のガス・ヴァン・サントもエグゼクティブ・プロデューサーになることで完成した映画です。原題の「ターネーション」とは、「天罰、破滅、ちくしょう」の意味。自分はなぜこんな人生を送らなければならないのか、という思いから付けたタイトルのようですが、映画には愛情が溢れています。

知らせを受けて、ジョナサンはレニーを引き取ることにします。突然陽気になって歌と笑いが止まらなくなったり、昔のことをジョナサンから聞かれて即座に逃げるレニー。情緒不安定なため、目を離すことができないレニーに付きっきりとなるジョナサン。ジョナサンを支えるボーイフレンドのデヴィッド。ジョナサンはアドルフにレニーへのショック療法の是非を追及することも忘れません。映画の内容は限りなく個人的なことで、積極的に他人には見せたくないことでしょうが、赤裸々に綴っていきます。

このパーソナル映画は、ジョナサンが幼少時からため込んだ記録が基になって作られています。その記録とは、自分や家族の写真、8ミリフィルム、留守番電話のメッセージ、ビデオ、11歳から作り始めた自主短編映画、80年代ポップ・カルチャーの映像など。彼はある種異常なまでのコレクターになるのですが、それは母親と自分の病気や虐待から自分を守り、心と体のバランスを保つために必要だったのです。

この膨大な記録を編集していくのですが、この映画で驚くべきことは、編集にiMovie(アップル社製パソコンに内蔵されている簡易映像ソフト)を使うことで、オリジナル・バージョンの制作費が218ドル(約2万円)ですんだこと。個人の家庭用ツールで映画1本できてしまうということは、これから映画界に進もうとしている若者に希望を与えますし、金だけかけて中身のないハリウッド映画(日本の福井春敏作品なども)に対して強烈なアンチ・テーゼを発します(『チーム★アメリカ』は派手な映画の製作に金をかけるジェリー・ブラッカイマーを批判しているようで、自分たちもそれなりの金をかけて映画を作っているため、この点でもアンチになりえていない)。

ただ、一部映像に凝りすぎて疲れる部分や、わかりづらい部分もありますが、色々な点でこういう映画もあるんだということがわかる映画です。



2004年アメリカ映画
原題:Tarnation
監督:ジョナサン・カウエット
配給:日本ヘラルド映画
上映時間:1時間32分
渋谷シネ・アミューズにて上映中、順次各地で公開
http://www.herald.co.jp/official/tarnation/

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