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清水雅彦の映画評

第0025回 (2005/08/18)
『亡国のイージス』〜駄作だが、この映画登場の現実に要注意

【ストーリー】
イージス艦「いそかぜ」は、溝口3佐(中井貴一)らFTG(海上訓練指導隊)も乗せて、海上訓練に出港した。しかし、溝口を名乗っていたヨンファら某国元工作員と宮津副長(寺尾聡)ら幹部たちに乗っ取られる。他の乗員たちは総員退艦させられるが、仙石先任伍長(真田広之)は艦内に戻り、DAIS(防衛庁情報局)の工作員として艦内に潜入していた如月(勝地涼)と行動を共にする。一方、官邸では「いそかぜ」の反乱に梶本総理(原田芳雄)、渥美DAIS内事本部長(佐藤浩市)、瀬戸内閣情報官(岸部一徳)らが対応に追われる。ヨンファらの日本政府への要求は、米軍の特殊兵器GUSOHの公表など3つ。要求が受け入れられない場合は、東京壊滅も可能なGUSOHを東京に打ち込むという。これに対して、政府は、仙石は……。


【コメント】
いやー、つまらなかった。と、言っていては映画評にならないので書きますが。本作品は、福井春敏原作小説を映画化したもので、今年映画公開3部作の取りを務めます。防衛庁、海上自衛隊、航空自衛隊が全面協力し、実物のイージス艦も登場。監督は金大中事件の闇に迫った「KT」の阪本順治、出演俳優は日本アカデミー賞最優秀主演男優賞受賞者の佐藤浩市、真田広之、寺尾聡、中井貴一と豪華。制作費は12億円です。

何がつまらなかったかというと、リアルさの欠如。設定も、ストーリーも、映像も。原作では「北朝鮮」(という、政治的な政府・マスコミ用語に疑問を抱かず使用)、映画では「某国」(と言っても、見れば朝鮮を想定しているのはわかります)の元工作員が東京を壊滅させようという無謀な考え、副長ほか幹部がヨンファに従う説得力のなさ、空自戦闘機が「いそかぜ」を撃沈するか否かをめぐるハリウッドB級映画的な陳腐な展開、安っぽいCGのため「アニメ版いそかぜ」が沈没するシーン……。もちろん、大著の原作を約2時間の映画に縮めている制約もわかるのですが。

それでも、映画の冒頭でずっこけてしまったのは、仙石が上陸時の隊員の傷害事件で警察官に土下座して連行を許してもらうシーン。映画では仙石が義理と人情の「ヒーロー」として描かれていますが、憲法でも公務員の憲法尊重擁護義務があり、特に国家最大の暴力装置である自衛隊・自衛官が法を守らなければ、国民にとっては危なくてしようがない。また、イージス艦を専守防衛の象徴のように描いていますが、イージス・システムを開発したのはアメリカであるように、これは攻撃のための防御システムです。

この映画は当初防衛庁が協力を拒んだのに、当時の石破長官が働きかけ、シナリオを若干変えることで協力が実現。すると、この映画の効果は何でしょう。福井氏自身は「先制攻撃論」には否定的ですが、「いそかぜ」が先制攻撃できない護衛艦を撃沈することから、自衛隊としては「あくまでも専守防衛」という原則をアピールしつつ、その限界を訴えることに成功します(しかし、国連憲章上も「先制攻撃」は違法であることを忘れてはなりません)。こういう映画に協力し始めた自衛隊には注意が必要です。

それにしても、日本の映画監督・俳優は節操がなくこんな映画でも出るんですね。また、この程度の小説が日本推理作家協会賞など3賞を受賞し、映画館に人が集まる。映画冒頭の「国としてのありようを失い、語るべき未来の形も見えないこの国を守る盾になんの意味があるのか」というメッセージに興奮し、ヨンファの「よく見ろ日本人、これが戦争だ」という言葉に憤慨するのでしょうか。私はしらけ、吹き出しそうになりましたが(リアルさにこだわるのであれば、題材は「国内テロ」にすべきでしょう)。ただ、戦後60年が経ち、こういう邦画が登場した現実には真面目に向き合う必要があります。



2005年日本映画
監督:阪本順治
製作:日本ヘラルド映画、松竹、産経新聞社ほか
配給:日本ヘラルド映画、松竹
上映時間:2時間7分
全国各地で上映中
http://www.herald.co.jp/official/aegis/

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