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清水雅彦の映画評

第0027回 (2005/09/11)
『映画 日本国憲法』〜世界の著名人たちが平和憲法の意義を語る

【ストーリー】
戦後60年目を迎えた2005年、自衛隊のイラク派兵をきっかけに憲法についての踏み込んだ議論がはじまりました。国内のあまりに性急な改憲への動きを、世界に視野を広げて見つめ直す、それがこの映画の出発点でした。憲法とは誰のためのものか、戦争の放棄を誓った前文や第9条をどう考えるのか。本作品は、憲法制定の経緯や平和憲法の意義について、世界的な知の巨人たちが語った貴重なインタビュー集です。(映画チラシより)


【コメント】
本作品は、『老人と海』『チョムスキー9・11』のジャン・ユンカーマン監督による作品で、2002年製作の後者作品の続編という位置づけで作られました。映画のテーマは「世界の人たちから見た日本国憲法」で、アメリカ・ヨーロッパ・アジア・中東など8ヶ国で12名の人々にそれぞれ1時間以上のロングインタビューを行い、映画ではインタビューのポイントをまとめて編集されています。映画で登場した特に6人のインタビュー全文や映画のシナリオなどを収録した書籍(『映画日本国憲法読本』フォイル)も出版されていますので、映画と併せて読まれるといいかと思います。

そして、本作品で登場するのは、ジョン・ダワー(歴史家)、C・ダグラス・ラミス(作家・政治学者)、日高六郎(社会学者)、ベアテ・シロタ・ゴードン(憲法草案作成時のGHQ民政局スタッフ)、チャルマーズ・ジョンソン(政治学者、元CIA顧問)、ミシェール・キーロ(作家・シリアの民主活動家)、ジョゼーフ・サマーハ(レバノンのアル=サフィール新聞編集長)、バン・チュンイ(作家・映画監督)、シン・ヘス(韓国挺身隊問題対策協議会・常任共同代表)、ハン・ホング(歴史学者)、カン・マンギル(歴史学者)、ノーム・チョムスキー(言語学者)で、錚々たるメンバーです。

シリアのキーロが「自衛隊の(イラク)駐留は国際法違反だと思います」と言えば、中国のバンが「憲法第9条は……まるで、神が私たち人類に贈ってくれた宝物のようです」と言い、アメリカのチョムスキーが「(日本がアメリカ勢力に加わる道を選ぶなら)20世紀への逆戻りどころか、野蛮時代への逆戻りです」と言う。12人それぞれが何を言っているかは是非映画で確かめてほしいと思いますが、特にアジアから日本の過去と現在の姿勢に厳しい非難が投げつけられ、一方で世界の人々から憲法9条・平和主義が注目されていることがよくわかります。それを私たちがどう受け止めるかが問われています。

しかし、映画の評価という点では、インタビュー集というのはちょっと安易です。もちろん、誰に聞くか、どういう発言を引き出すかという大事な作業が監督らの腕にかかっていますが、もう少し工夫がほしい。映画ではインタビュー以外にも関連する資料映像が流れますが、これがあまりに少ない。もっとインタビュー毎に資料映像を入れた方が、発言内容の理解をより深めることができるし、映画製作に当たって資料発掘や映像収集などもっと努力してほしい。また、映画では、「プロテスト・ソング」を歌い、一定の評価があるソウル・フラワー・ユニオンの音楽を使っていますが、インタビュー映画の本作品とちょっと合っていない(これは好みの問題でしょうが)。内容からすると人権論などがないわけですから、タイトルは「映画 平和憲法」「映画 憲法第9条」でしょう。

もちろん、日本に居ながら世界の著名人の発言を聞ける点や、発言内容の貴重さという点は評価できます。また、本作品は既にDVDとビデオにもなっているので、地域での勉強会・上映活動にも使える便利な映画だと思います。



2005年日本映画
監督:ジャン・ユンカーマン
企画・製作:山上徹二郎
上映時間:1時間18分
全国各地で順次上映(上映日程については、公式ホームページ参照)
http://www.cine.co.jp/kenpo/

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