清水雅彦の映画評
第0031回 (2006/01/15)
『ザ・コーポレーション』〜民営化全盛の今見るべき映画
嘘つきで罪の意識がなく法に従えない企業を精神分析すれば、診断結果は「人格障害・サイコパス」……。企業に批判的なマイケル・ムーア、ノーム・チョムスキーほか市民運動家・ジャーナリスト・学者から、ミルトン・フリードマンや現役の経営者まで、40人もの人のインタビューを中心に企業を分析していきます。そして暴かれる企業犯罪、公害、民営化の弊害、外国での搾取、ナチス政権下のアメリカ企業の協力など。
原作・脚本はブリティッシュ・コロンビア大学の法学教授兼弁護士のジョエル・ベイカン、監督はマーク・アクバーとジェニファー・アボット。カナダ国立映画製作庁も資金援助しています。アメリカ批判のアメリカ映画『華氏911』や『ロード・オブ・ウォー』を配給するカナダの映画であり、原作者が法律家というのが興味深いです。
映画の最後でマイケル・ムーアが観客に立ち上がることを呼びかけ、監督の意図もここにあります。映画で出てくるボリビアの水道民営化反対運動は、親米政権打倒につながりました。しかし、日本では行動の前にまず意識改革でしょう。「郵政民営化選挙」での自民党大勝や、正月早々福袋に群がる消費者の映像を見て思いました。金儲け第一主義の企業の本質を見ず、消費に踊らされている構造に気がつかない。スーパーでポイント・カードを作り、次々とファッション製品を求め、携帯電話の奴隷になり……。
憲法論として考えるべきことは法人論。「法人の人権」を主張する人もいますが、法人には当然人権なんてありません。あるのは、自然人と比べて大幅に制約されたいくつかの権利だけ。しかし、日本の実態は逆。選挙権のない法人の政治献金が野放しで、生存権のない銀行が税金で救われる。最近では、トヨタ会長ほか財界が改憲により軍事で金儲けを企む。今必要なのは、民営化の波を押し止め、企業を法的に規制することです。
2004年カナダ映画
上映時間:2時間25分
渋谷UPLINK X/FACTORYで上映中
http://www.uplink.co.jp/corporation/
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