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清水雅彦の映画評

第0032回 (2006/01/22)
『亀も空を飛ぶ』〜子どもの視点からクルド人問題を告発する

昨年9月以降の忙しい時期には、1ヶ月以上映画を見られないこともありましたが、徐々に映画を見る時間位は確保できるようになり、簡略化してこの映画評も再開しました。このあたりで、もう上映は終わっていますが、この間見た映画5本の映画評を一気に紹介しておきます。ご関心のある方は、DVDなどで見ていただければと思います。

まずは、2003年の「イラク戦争」前後のイラク・クルディスタン地方を描いたこの作品。パラボラアンテナの取付・販売で生計を立て、地雷の掘り出し・販売で暮らす孤児たちの元締めもする孤児のサテライト。彼が好意を寄せる、赤ん坊・リガーを連れた難民の少女・アグリン。この2人を軸に物語は進みます。2人の回りには、松葉杖をついた少年など様々な形で戦争の被害を受けた多くの孤児たちが取り巻いて。

大人たちが勝手に始める戦争の最大の犠牲者は子どもたち。政治的意思決定過程への参加が保障されていないのに、決定の帰結を引き受けなくてはなりません。アグリンの両親はイラク軍に殺され、兄は地雷で両手を失い、そして本人はイラク軍人にレイプされてリガーを生むことに。子どもは時代と国を選んで生まれることはできないのに、アグリンたちは理不尽な被害者に。さらに、子どもは親も選んで生まれることはできないのに、「ママ」(アグリン)を一途に慕うリガーは憎しみの連鎖の犠牲になります。

本作品のバフマン・ゴバディ監督は、イラン生まれのクルド人。彼の作品である『わが故郷の歌』(2002年)では、クルド人の悲劇を描きつつ、まだ明るさもありました。しかし、本作品では子どもたちのたくましさを描きつつ、重い現実を突き続けます。タイトルの「亀」に歴史の重荷を背負うクルド人を、そしてアグリンにも他国からレイプされてきたクルド人を象徴させながら。



2004年イラク・イラン映画
上映時間:1時間37分
http://www.sanmarusan.com/kame/

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