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清水雅彦の映画評

第0036回 (2006/01/22)
『ランド・オブ・プレンティ』〜ドイツ人監督によるアメリカへのメッセージ

アフリカとイスラエルで育ち、亡き母の手紙を伯父に届けるために10年ぶりにアメリカに帰ってきたラナ(ミシェル・ウィリアムズ)と、ヴェトナム戦争の後遺症で苦しめられている伯父・ポール(ジョン・ディール)。帰国後、ラナは伝道所でホームレスの支援活動を始めるのに対して、相変わらず「9・11」以降、一人でアメリカを「テロ」から守るために「母国警備活動」を続けるポール。そんな二人がある事件をきっかけに、一緒にアメリカ横断の旅に出かけることになり……。

本作品は、ドイツのヴィム・ヴェンダース監督によるもので、2004年ヴェネチア国際映画祭でユネスコ賞を受賞しました。テーマは「9・11」後のアメリカ。その後の戦争と監視に邁進するアメリカの姿を、本人は真剣なポールが過剰に体現します。ポールは天井から突き出した監視カメラを操作しながら、特製のヴァンで日夜監視活動を続ける。怪しげな段ボール箱を抱えたアラブ人の後をつけ回し、不審な工場や民家に潜入する。しかし、発見したのは化学兵器の原料やアジトではなく、単なる洗剤や民家。

この「変わった伯父さん」を、宣教師の父を持つ博愛の精神を有する無垢なラナは批判も拒絶もすることなく、自然に受け止めて付き合います。猜疑心で凝り固まったポールと、ポールが嫌う活動を続けた妹の子・ラナ。アメリカ横断の中で、「テロ」防止のために自分が行ってきたことが無駄だったことを知るポール。そして二人はニューヨークに向かい、貿易センタービル跡地で犠牲者の声に耳をすませます。

まさにラナの姿がそうであるように、ヴェンダース監督は「9・11」後のアメリカの姿勢を声高に批判はしません。タイトル(原題はLand of Plenty)が示すように、かつては寛容と博愛に満ちた「豊かな国」アメリカが、内側から変わることを期待して。



2004年アメリカ・ドイツ映画
上映時間:2時間4分
http://www.landofplenty.jp/

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