清水雅彦の映画評
第0038回 (2006/02/06)
『スタンドアップ』〜セクハラの背景も考えたい
夫の暴力から逃れるために、子どもを連れて故郷のミネソタ北部のまちに戻ってきたジョージー(シャーリーズ・セロン)。しかし、父親の違う二人の子どもを抱えるシングルマザーへの地域社会と父親の冷たい視線。生活のために鉱山で働き始めると、男性労働者から「男の職場」に入り込んできた女性労働者への嫌がらせやセクハラに直面し、レイプされそうにもなる。同僚女性が沈黙する中、一人立ち上がることになり……。
原題はNorth Country、1989年の実話に基づく映画です。監督は前作『クジラの島の少女』のニキ・カーロ。そして『モンスター』で、貧困と男性の暴力から連続殺人犯となる実在の娼婦を演じたセロン(セロンの母親は、彼女が15歳の時に暴力夫を正当防衛で射殺しています)。泣き寝入りせずに、闘って勝利する女性を描いていきます。
この作品の問題を、単純に「男対女」と捉えるべきではないでしょう。確かに、男性によるセクハラには男性の女性蔑視が根底にあるとはいえ、映画では多くの女性も沈黙しています。男性も女性も自分の職を失いたくないからです。とりわけ、1980年代から顕著となるアメリカの新自由主義改革が、そのような意識を生み出したのでしょう。女性差別やセクハラに対して、男性の意識を批判するだけでは不十分です。
それにしても、法廷での企業側弁護士のなんと醜いことか。弁護士だから勝つためにやっているのはわかるのですが。日本でも醜い弁護士はいますよ。世間では「人権派」で有名な一方、人権侵害法人の弁護をしている人もいます。「○○の権利」で有名なある「人権派」弁護士は、ロースクールの教員にもなっていますが、院生には「人権派で有名になりつつ、悪徳法人の弁護で稼ぐ方法」でも教えているのでしょうか。そんなことも含めて色々考えさせるいい映画ですが、この手の映画の上映期間の短さが大変残念。
2005年アメリカ映画
上映時間:2時間4分
http://wwws.warnerbros.co.jp/standup/各地で上映中
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