清水雅彦の映画評
第0039回 (2006/02/12)
『ミュンヘン』〜「テロにも報復戦争にも反対」を越えろ
1972年のミュンヘン・オリンピック開催中にパレスチナゲリラが選手村に侵入し、イスラエル選手団の11人を殺害する。これに対してイスラエル政府は、諜報機関モサドを使って報復(「神の怒り作戦」)に乗り出す。極秘裏にアヴナー(エリック・バナ)をリーダーとする暗殺チームを結成し、ヨーロッパに点在するPLO幹部ら11人を標的に。一人ずつ暗殺していく中、アヴナーらには任務に対する疑問が生じ始め……。
実話に基づく話を、スティーヴン・スピルバーグ監督が大作に仕上げました。登場する人物の衣装や装飾品、車など、「1970年代」の世界を忠実に再現し、画像もちょっと古い色合いで、かつドキュメンタリータッチで撮られています。アヴナーらの不信、不安、動揺、葛藤、恐怖などをしっかりと描いており、ストーリー展開も見せます。
私のスピルバーグ監督の評価は、以前書いたとおり(映画評第0007回参照)で、「良心的な映画」を作成する人です。これだけのメジャーな、そしてユダヤ系の監督がこういうテーマを扱うことについては、評価すべきでしょう。映画の最後に世界貿易センタービルを登場させていることからしても、監督の意図は「9・11事件」以後の「対テロ戦争」を含む暴力の連鎖批判です(フランス人の「情報屋」の姿勢が「国家より金」というのも示唆的)。日本のメジャーな映画監督では、なかなかこういう映画を作れません。
しかし、スピルバーグ監督はラディカルではないため、限界も感じます。この映画では、なぜパレスチナ人が「テロ」を行うのかを描いていないため、これでは「テロにも報復戦争にも反対」というよく聞くスローガンになりかねません。「テロ」の背景にある問題をえぐり出し、対処しないと、根本的解決にはつながりません。もちろん、私の批判はないものねだりだとは思うのですが、さらに踏み込んでほしいとも思います。
2005年アメリカ映画
上映時間:2時間44分
http://www.munich.jp/全国各地で上映中
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