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清水雅彦の映画評

第0041回 (2006/02/20)
『イノセント・ボイス―12歳の戦場―』〜「怖いね」と言うだけで終わらぬために

1980年のエルサルバドル。貧しい農民などが結成した反政府組織FMLNと政府軍との激しい内戦が続いていた。その内戦下、FMLNと政府軍の支配地域の境界にある小さなまちで、11歳の少年チャバ(カルロス・パディジャ)は家族と暮らしていた。夜昼関係なく突然始まる戦闘に巻き込まれることを除けば、学校での生活、友だちとの遊び、淡い初恋と、子どもらしい楽しい時間を過ごして。しかし、「子ども」でいられるのもあとわずか。12歳になると、子どもたちは無理やり政府軍に徴兵され……。

本作品は、今ではアメリカで俳優として活躍するオスカー・トレスが実際に経験した内容を、メキシコ出身のルイス・マンドーキ監督がまとめたものです。登場する多くの俳優もメキシコ俳優。映画の中では、政府軍を支援するアメリカの存在も描いています。12年間の内戦で約7万5千人の犠牲者と約100万人の亡命者を生み出しました。

日本にいると想像がつかない「12歳になること」を恐れる状況。家の屋根が遊び場ではなく政府軍から逃れる隠れ場所になるという現実、友だちや初恋相手の死、そしてFMLNへの志願。反政府組織に志願するということは、家族との別れだけでなく自分の死をも覚悟しなければなりません。実際に、チャバらは政府軍に捕まり、「まさか子どもを殺さないだろう」と思って見ていたら、政府軍兵士が無抵抗の子どもを1人2人と殺していき……。一方で、過酷な状況下でも、「子ども時代」を楽しむ姿に心打たれます。

ところで、映画館に入ろうとしたら、「日本は恵まれているわねー」と話しながら出てくる人たちとすれ違いました。それこそ、「『怖いね』と言うだけで、ディナーを続ける」傍観者になってはならないでしょう。『ロード・オブ・ウォー』とも共通する課題は、小火器規制と背後のアメリカ批判の必要性ですが、日本人としてまずできるのは、日本国憲法が掲げる非武装平和主義の改悪をくい止め、世界に広めることでしょう。

2004年メキシコ映画
上映時間:1時間52分
http://www.innocent-voice.com/
シネスイッチ銀座で上映中、順次各地で上映予定

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