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清水雅彦の映画評

第0046回 (2006/05/05)
『シリアナ』〜アメリカの石油利権を鋭く暴く

民主化と中国系企業との連携を目指す某中東産油国王子の暗殺を命じられるCIA工作員(ジョージ・クルーニー)、その王子の民主化構想を支持し相談役になるエネルギー・アナリスト(マット・デイモン)、その米国系企業の合併相手の不正を見つけだし合併を有利に進めようとする弁護士(ジェフリー・ライト)、先の中国系企業へ採油権が移ることで米国系企業からの解雇後に「イスラム教過激派」にのめり込んでいくパキスタンからの出稼ぎ労働者(マザール・ムニール)。この4人の話がつながっていき……。

一見別々に見えるような話が複雑に絡み合い、実は全部つながっているという話。石油をめぐってCIA・石油企業・アラブの王族の関係を暴き、そこから「テロリスト」を生み出す構造を示していく。『チーム★アメリカ ワールドポリス』では、その政治性が批判の対象となったジョージ・クルーニーが製作総指揮兼キャストとしてやってくれました(そして、彼はアカデミー賞助演男優賞を受賞)。

タイトルの「シリアナ(SYRIANA)」とは、「アメリカの利益にかなう中東の新しい国」というワシントンの業界用語で、地域としてはシリア・イラク・イランを指すといいます。これらは反米国家で、イラクは先の「イラク戦争」でアメリカがサダム政権を打倒しました。「核開発」「テロ国家」などの理由をあげては、次に叩きたいのはイランとシリア。その背後にはアメリカの利権がちらつきます。

同じく『チーム★アメリカ』で批判の対象になったマット・デイモンは、この映画に出ることで政治的な俳優と見られることに恐怖感は感じるかと聞かれて、「まったくないね」と答えています(映画パンフレット参照)。石油のために戦争をやめないブッシュ政権が続く一方、人気俳優がこのような映画に出演し、アカデミー賞を受賞するところにアメリカ社会の健全さを感じさせます。一方、日本では人気俳優が出演する政治批判の映画は皆無で、日本アカデミー賞では懐古主義の『ALWAYS 三丁目の夕日』が一人勝ちする始末。芸術に批判精神がないなんて、戦前と変わらないのではないでしょうか。

2005年アメリカ映画
上映時間:2時間8分
http://wwws.warnerbros.co.jp/syriana/

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