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清水雅彦の映画評

第0047回 (2006/05/06)
『クラッシュ』〜人間を善人と悪人の二種類に単純化してはならない

クリスマス間近のロサンゼルスで自動車の衝突事故が発生する。この事故までの36時間、ドラッグ中毒の母を持つ黒人刑事、白人による差別から犯罪に走る黒人二人組、イラク人に間違えられるペルシャ人の雑貨店主、娘想いのヒスパニック系鍵の修理工と彼を不審者扱いする白人地方検事の妻、人種差別主義者のベテラン白人警官と彼に不快感を抱く白人警官、裕福な黒人TVディレクターと白人警官から屈辱を受けるその妻などなどが、それぞれ相手と衝突し、複雑に絡み合っていき……。

本作品は『ミリオンダラー・ベイビー』で脚本家デビューを果たしたポール・ハギスの監督デビュー作(本作品では原案・脚本・製作も担当しています)。今年のアカデミー賞で作品賞・脚本賞・編集賞を受賞しました。アカデミー賞ではカウボーイの同性愛を描いた『ブロークバック・マウンテン』と競合しましたが、こちらが奥の深さと複雑さから作品賞と脚本賞を受賞したことには納得がいきます。

『シリアナ』以上に多い登場人物(それも様々な人種や階層の人物が登場し)の物語が複雑に絡み合い、ロサンゼルスを舞台に無知、無理解、先入観、偏見、不寛容、嫉妬、恐怖などとそれらの根底にある人種差別問題を描いていきます。特にこの映画で印象的なシーンは、白人からもペルシャ人からも差別を受け難癖をつけられるヒスパニック系修理工の耐える姿勢、犯罪に走る黒人二人組のそれぞれのその後、人種差別主義者の白人警官の優しさ優秀さと彼に不快感を抱く白人警官の末路です。

この映画が素晴らしいのは、人間には単純に善人と悪人がいるのではなく、両面を複雑に持ち合わせていて、両者の垣根は低いことを示している点と、他人への信頼の必要性を感じさせる点です。だから、人間社会は簡単に悪い方向に向かいますが、いい方向に向かう希望もある。いくつかのシーンで心を揺さぶられる作品です。

2005年アメリカ映画
上映時間:1時間52分
http://www.crash-movie.jp/
各地で上映中

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