清水雅彦の映画評
第0050回 (2006/05/10)
『かもめ食堂』〜サチエはお客に迎合しなかったけど、今後の監督は?
夏のある日、フィンランドのヘルシンキの街中に、日本人女性のサチエ(小林聡美)が「かもめ食堂」という小さな日本食堂を開いた。メインメニューはおにぎりにし、気軽に入れる店にしようとしたが、外から覗く人はいてもお客は毎日ゼロ。それでもサチエは毎日誰も来ない店を開き続けた。そんなある日、日本のアニメが大好きな若者トンミが初めてのお客としてやってきて、常連客となる。さらにその後、日本人女性のミドリ(片桐はいり)・マサコ(もたいまさこ)と出会い、二人はお店を手伝うことになり……。
本作品は、2003年ベルリン国際映画祭児童映画部門特別賞を受賞した『バーバー吉野』から三作目となる荻上直子監督作品。原作は群よう子。ゆったりとした時間の流れるフィンランドを舞台に、それぞれがなぜフィンランドに来たのかお互い詮索もせず、お店で共に時間を過ごす女性をベテラン三女優が演じます。特に、いい加減そうでしっかりしてそうな、押しつけがましくないサチエを小林聡美が好演しています。
いわゆる「脱力系」というのか「癒し系」というのか。適度な笑いが心地よい幸福感をもたらし、せかせか一生懸命すぎなくてもいいんだよというメッセージが伝わってきます。私自身、スウェーデンで夏の1か月間生活したことを思い出しました。夏は日が長く、人々はバカンスを楽しみ(年間を通じて労働時間も短い)、ちょっと行けばすぐに森や湖のある北欧の生活環境。1か月程度でも日本に帰りたくないと思いました。
ただ、こういう作品もいいのですが、片桐はいりともたいまさこという独特な俳優を登場させて笑いを取るのは本質的ではないですね(『バーバー吉野』でもたいまさこを使ったのは、彼女が「田舎の伝統」を象徴していて意味があった)。また、『バーバー吉野』は笑いの中にさりげなく日本社会への風刺があってよかったのですが、荻上監督がこのまま当たり障りのない無難な監督になってしまわないことを願うばかりです。
2005年日本映画
上映時間:1時間42分
http://www.kamome-movie.com/シネスイッチ銀座ほかで上映中
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