清水雅彦の映画評
第0052回 (2006/05/28)
『ナイロビの蜂』〜アフリカにおける先進国政府と製薬会社の陰謀を暴く
外務省アフリカ局一等書記官ジャスティン(レイフ・ファインズ)の講演で、活動家のテッサ(レイチェル・ワイズ)がイギリスのイラク政策を激しく批判する。講演後、ジャスティンはテッサをお茶に誘い、二人は結ばれる。その後、ジャスティンはケニアに駐在することになり、テッサも同行することに。ナイロビのスラム地区でテッサは医療改善のために奮闘している内に、大手製薬会社が新薬の人体実験を行っていることを知り、告発する。さらなる調査のために出かけたテッサが殺害され、ジャスティンは……。
監督はブラジルのスラム街を描いた『シティ・オブ・ゴッド』のフェルナンド・メイレレス、原作はイギリスの小説家ジョン・ル・カレ作品、原題はThe Constant Gardener、後援はWFP国連世界食糧計画。庭いじりが趣味でさして政治的問題意識のない外交官が、妻の死をきっかけに目覚めます。映画の批判対象は、人道支援の名の下に行っている大国の欺瞞外交と製薬会社の利潤追求(本当に金儲けしか考えていない連中は不愉快)。レイチェル・ワイズは本作品で今年のアカデミー賞助演女優賞を受賞しました。
それにしても、映画のテーマは大変興味深い政治的なものなのに、なんで日本の映画宣伝はレベルが低いのでしょうか。たとえば、本作品の新聞広告には「心揺さぶる〈愛の奇跡〉に絶賛の拍手は鳴り止まない!!」という言葉に続いて、「今日私が死ぬとしたら迷うことなく生涯ベスト1」「愛の深さに胸を打たれました」「奇跡とよべる映画の1本」などの有名タレントらの言葉が並びます。日本の「純愛ブーム」に乗っかって、愛を強調し人を呼び込もうとしているのが見え見え。二人が結ばれるまでが不自然だし、テッサのある行動から彼女はジャスティンを利用したのではとの解釈もできるのですけどね。
それはともかく、やはり日本との違いはこういう政治的な映画を作ることができるという欧米の状況。評価する側も距離を置いて感想を述べてもらいたいですね。
2005年イギリス映画
上映時間:2時間8分
http://www.nairobi.jp/全国各地で上映中
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