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清水雅彦の映画評

第0062回 (2006/08/15)
『太陽』〜天皇を題材にしたのはいいけれど、中身は疑問

戦争末期の日本。昭和天皇裕仁(イッセー尾形)は、地下の退避壕で避難生活を送りながら、御前会議に出たり、地上の研究所で海洋魚類の研究をしていた。御前会議では、本土決戦の覚悟を述べる陸軍大臣に対して、平和を望んだ明治天皇の歌を紹介する。午睡で裕仁は東京大空襲の悪夢を見て目が覚め、皇太子への手紙の中で敗戦の原因を書き始める。やがて、GHQのマッカーサー司令官と会見することになり……。

本作品は、ロシアのアレクサンドル・ソクーロフ監督による、敗戦前後の裕仁を題材にした作品です。裕仁を正面から描いた作品が皆無の中で、裕仁の公私を外国人監督が描きました。本作品は昨年のベルリン国際映画祭などで話題になったものの、テーマがテーマだけに日本ではなかなか購入者と上映館が決まりませんでした。

映画自体は事実を忠実に再現したわけではなく、当然監督の一つの解釈です。おそらく、戦前の教育を受けた人がこれを見れば、妻と子どもを愛し、ちょっとお茶目なところがある「人間天皇」の姿に軽い衝撃を受けるかもしれません。一方、歴史をよく理解していない人が見れば(たとえば、裕仁が近衛文麿の上奏文を無視して戦争を続行したことなど)、裕仁を平和主義者と思うようになるかもしれません(裕仁が靖国神社へのA級戦犯合祀を怒ったという話も、自身の戦争責任から目をそらす効果があります)。

やはり情けないのは、日本人が天皇を題材に映画を作れないこと。私は授業で天皇制の問題についても私見を述べますが、多くの日本人は触れたがらないし、政府・マスコミなどに「洗脳」されています(君が代の逐語訳ができない、元号を平気で使う、祝日の意味を知らない、皇族に当たり前のように「さま」を付けるなど)。今日(8月15日)、靖国神社に参拝した小泉首相も問題ですが、彼を支持している国民も問題。先の戦争にしろ天皇制にしろ、きちんと議論をして問題を解決していくべきです。

2005年ロシア・イタリア・フランス・スイス映画
上映時間:1時間55分
http://taiyo-movie.com/
銀座シネパトスなどで上映中

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