清水雅彦の映画評
第0064回 (2006/08/25)
『ユナイテッド93』〜「見事な再現ドラマ」(品田雄吉・朝日新聞8月10日夕刊)か
2001年9月11日、乗員乗客44名を乗せたユナイテッド93便は、朝の離陸ラッシュにより41分遅れで離陸した。ボストン管制センターでは、通信が途絶えたアメリカン11便の異変に気づき、防空指令センターは臨戦態勢に入る。そして、同機は世界貿易センタービルに激突し、ユナイテッド175便も続く。「テロリスト」にハイジャックされたユナイテッド93便の乗員乗客有志は、ありあわせの「武器」を手に立ち上がり……。
本作品は、「9・11事件」で「唯一目標に達しなかった」といわれているユナイテッド93便が墜落するまでを、ポール・グリーングラス監督が映画にしました。監督は、亡くなった乗員乗客の遺族・友人、9・11委員会、航空管制官、軍関係者に丹念な取材をし、映画では事件当日勤務していた複数の管制官本人にも出演してもらい、忠実な「再現」を試みたようです。微妙に揺れる手持ちカメラの手法も臨場感を出しています。
映画プログラムには、亡くなった乗員乗客39人の詳しい人物像が記されており(この中には旅行中だった日本人早大生の名前も)、多種多様な人生を一瞬で失う「テロ」の悲劇がよく伝わってきます。「テロリスト」の描き方も「冷静」といえます。
しかし、乗客らが「テロリスト」と格闘しているうちに墜落したとされていますが、事実を証言できる人はいませんし、空軍による撃墜説もあります。それなのに、墜落後の映画字幕では、「一番近い戦闘機は現場から160キロの遠方にいた」としています。酷な言い方ですが、乗客らが闘ったのは自分たちが助かるためで、「更なる悲劇を防いだ英雄」とするのは第三者の見方です。映画プログラムには、亡くなった「テロリスト」の人物像はありません。監督の取材対象が一方の側ですから、この映画を「見事な再現ドラマ」と捉えるのは問題です(ちなみに、私はアメリカの戦争に加担している国の国民なので、「テロ」にあいたくないけど、自分が被害を受けても批判できないと思っています)。
2006年アメリカ映画
上映時間:1時間51分
http://www.united93.jp/top.html全国各地で上映中
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