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清水雅彦の映画評

第0065回 (2006/09/06)
『ディア・ピョンヤン』〜在日朝鮮人父娘の10年間の葛藤物語

在日コリアン約3万人が生活する大阪市生野区で、朝鮮総聯幹部として在日朝鮮人運動に取り組んできた父と父を支えてきた母の下で育った梁英姫(ヤン・ヨンヒ)。3人の兄たちは1971年に「祖国帰国事業」で朝鮮に渡った。母は兄たちに日用品などを送り続けている。2001年、4年遅れで父の古希を祝う会を平壌で行った。さらに3年後の2004年、兄たちの「帰国」のことや韓国籍への変更希望を父に聞いてみると……。

本作品は、長年父に違和感を感じ続けてきた梁英姫監督が、父を中心に自分の家族を10年間にわたって追い続けたドキュメンタリー。ベルリン国際映画祭やサンダンス映画祭などで賞を受賞しています。古希を祝う会では勲章だらけのスーツ姿で「祖国」への忠誠を誓う一方、家ではステテコ姿で笑いの絶えない父親のキャラクターがいいです。

多くが朝鮮半島南部出身者ながら、国内外の政治情勢や日本国内での在日朝鮮人運動・民族教育の観点(韓国を支持する民団は民族教育の取組が不十分)から、朝鮮を支持する朝鮮総聯メンバーの複雑さと歴史的役割から考えると、梁さんが仕事などの関係で朝鮮籍から韓国籍(映画では「国籍」と表現していますが、国籍ではありません)に変えたいと言うことは安易だし、口にする違和感は「日本人的」と感じたりします。

とはいえ、普段、悪意に満ちた低い音程のナレーションで朝鮮を批判・侮蔑する日本のマスコミ(朝鮮における「将軍様」という表現や「金親子体制」を批判する一方、日本の皇族に必ず「さま」を付け、皇族の男児(世継ぎ)出産で過剰報道をする日本は、果たして国民主権・平等の国なのでしょうか。封建制の遺物を批判もできない非先進国日本のマスコミや国民に、朝鮮を批判する資格はありません)と比較すると、監督自身は父親や朝鮮に違和感を感じつつもたんたんと家族や朝鮮人の姿を撮影する様に暖かみを感じます。朝鮮と親子の葛藤が題材ながら、笑いもあり、観て損はしない映画です。

2005年日本映画
上映時間:1時間47分
http://www.film.cheon.jp/
渋谷シネ・ラ・セットなどで上映中

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