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清水雅彦の映画評

第0071回 (2006/10/23)
『旅の贈りもの 0:00発』〜JR西日本に鉄道の旅を語る資格はない

それぞれ訳ありのキャリアウーマン・由香(櫻井淳子)や高校生・華子(多岐川華子)らは、大阪駅0:00発の夜行列車に飛び乗った。この夜行列車は、事前に行き先を乗客には知らせない特別企画列車。終着駅は無人駅の風町駅。観光スポットもコンビニもない海に面した田舎町で、目に入るのは海と古い街並みとお年寄りたち。乗客たちは風町唯一の旅館か民家に泊まり、数日過ごすことに。そこで由香や華子らは……。

本作品の監督は「平成ウルトラシリーズ」に参加していた原田昌樹、脚本は旅行会社出身の篠原高志。他に主なキャストとして、大平シロー、細川俊之、徳永英明、大滝秀治、梅津栄、石丸謙二郎など。最後に中森明菜による「いい日旅立ち」が流れます。

この映画は、失恋、自殺願望、かなわぬ夢、リストラ、妻の死などそれぞれ問題を抱えた旅人が、田舎町でのひとときから「再生」されていくという話。都会生活・人間関係などで傷つき疲れた人々が、旅と人との触れあいから変わっていくという設定はいいのですが、映画の出来はまだまだですね。いかにもという極端な設定だし、苦悩を抱えた人間の深刻さが今ひとつ伝わってこないし、ストーリー展開も想像可能なパターン。

なぜこの映画を見に行ったかというと、広告のEF58の写真に目がとまったから。実は、大学生時にバイク・車に乗り始めてから離れてしまいましたが、小中高校生の頃は熱烈な鉄道ファンだったのです(自ら言う人もいますが、私は「鉄ちゃん」という言い方は嫌いです。鉄道ファンを小ばかにする人が多いのも許せない)。1958年製造のEF58がまだ頑張っている姿に嬉しくなりました(しかし、予算の関係でしょうが、EF58が引いている客車が2両というのはがっかりです)。ちなみに、今年、実家で昔の鉄道写真や時刻表を見つけてすっかり興奮してしまった私の最近の密かな夢は(書いちゃったけど)、ローカル線沿線の高専や大学に赴任し、鉄道研究会の顧問になることです(笑)。

父母の実家が兵庫県にあり、毎年夏休み中に遊びに行っていたのですが、小学4年生の時に小田原・新大阪間の新幹線に1人で乗って行きました。小学6年生の時には1人で鈍行を乗り継いで行き、中学生になると夜行鈍行なども使いながら中国・四国・九州地方を旅行しました(小中学生が1人旅だなんて、今だと親の過保護と社会の不安感の高まりから許されないでしょうね。嫌な時代になったものです)。とにかく乗るのが好きだったのと、あちらこちらで車両の写真を撮りまくるためには、1人が一番よかったからです。当時は新幹線・特急より鈍行が好きでした(特急などは高いのと情緒がないから)。

昔の国鉄はよかったです。まだ飛行機は高いし、高速道路網の整備が不十分だったからとはいえ、私が子どもの頃でも急行や夜行列車が充実していましたし、夜行鈍行も結構残っていました。実家の近くに当時は非電化の相模線が走っていたのと(まだキハ10系・20系気動車も走っていました)、父の実家に行くときに使う非電化の山陰本線によく乗ったこともあり(特急はキハ82系気動車、急行はキハ58系気動車が全盛でしたが、私がよく乗ったのはDD51に引かれた鈍行普通列車。オハ35系・スハ43系などの茶色又は青色の旧型客車は扉が開けっ放しで、あの開放感が好きでした)、電車・電気機関車より気動車・ディーゼル機関車が好きでした(あのうなるエンジン音が「人間的」)。

しかし、国鉄末期もその傾向があったとはいえ、鉄道をつまらなくさせたのが国鉄の分割民営化・JRの誕生です。狙いは国労解体・総評弱体化と株式会社化による国民の財産の分捕りですが、鉄道ファンとしては許せない数々のことをやりました。とにかく儲けるためなら何でもありになり、ローカル線の廃止、急行・夜行列車の大幅削減、新幹線開通による在来線の第3セクター化(横川・軽井沢間廃止まで)、JR各社間直通列車の削減、周遊券の廃止、近郊型車両の大幅ロングシート化(旅はボックスシートがいいのに、人間を豚扱いしていますね)など、分割民営化により運賃・料金値上げに近いことをやる一方、乗客、特に庶民へのサービスが大変悪くなりました。その行き着く先が、2005年のJR西日本・尼崎での脱線事故(大量殺人)です。そんなJR西日本(本作品撮影協力)とJR西日本コミュニケーションズ(製作)に、旅の魅力を語る資格はありません。

2006年日本映画
上映時間:1時間49分
http://www.tabi-000.jp/
銀座テアトルシネマなどで上映中

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