清水雅彦の映画評
第0073回 (2006/11/06)
『父親たちの星条旗』〜「あの」クリント・イーストウッドが、これ!?
太平洋戦争末期の1945年2月、硫黄島に上陸したアメリカ軍は、日本軍の予想以上の抵抗に苦戦していた。そんな中、たまたま6人の米兵が苦労もせず擂鉢山の頂上に星条旗を建て、この写真がアメリカ国内で報道されると、6人は「英雄」として祭り上げられることに。この6人のうち生き残った3人、海軍衛生兵のジョン・“ドク”・ブラッドリー(ライアン・フィリップ)、海兵隊員のレイニー・ギャグノン(ジェシー・ブラッドフォード)、海兵隊員でピマ族のアイラ・ヘイズ(アダム・ビーチ)が急遽本国に戻され、政府による戦費調達のための戦時国債キャンペーンに駆り出されることになり……。
本作品は、監督・製作・音楽がクリント・イーストウッドで、製作にスティーブン・スピルバーグ、脚本にポール・ハギスも加わります。原作は、ブラッドリーの息子ジェイムズ・ブラッドリーとロン・パワーズ。AP通信カメラマンのジョー・ローゼンタールが撮影し、ピュリッツァー賞を受賞する「硫黄島での国旗掲揚」を巡る話です。
スピルバーグが製作に関わっていることもあり、首や腕が吹き飛び転がる『プライベート・ライアン』冒頭のような戦闘シーンが再現され、「敵」側の日本兵からの視点を描かないことで、いつどこから攻撃されるかわからない恐怖が伝わってきます。そして、映画で明らかにされる「もう一つの星条旗」と「入れ替わった6人目」、帰還した「3人のその後」(自滅した1人は本当に悲惨)。上陸前の空爆と艦砲射撃を予定の10日から3日に変更したことや、「英雄」の利用など、軍部上層部と政府の「実態」も描きます。
イーストウッドといえば、「共和党保守派」とも言われた人物ですが、この映画ではその印象はありません。押しつけがましさもない本作品から伝わってくるのは、個人を翻弄する政府の醜さ、プロパガンダの恐さ、ネイティブに対する差別の根深さなどなど。最近のイーストウッドの作品は、円熟味のある寡黙さの中に重い余韻を残します。
2006年アメリカ映画
上映時間:2時間12分
http://wwws.warnerbros.co.jp/iwojima-movies/全国各地で上映中
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