日本民主法律家協会

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法と民主主義

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法と民主主義2017年11月号【523号】(目次と記事)

特集★2017年衆院選──私たちは何をなすべきか
◆特集にあたって………編集委員会・南 典男
◆衆院選を教訓に、市民と立憲野党の共闘の深化を………五十嵐 仁
◆インタビュー◆「非立憲野党」は止められるか………中野晃一
◆「市民連合」というプロジェクト──2017年10月衆院選をたたかって………広渡清吾
◆インタビュー◆ブリュッセルから見た2017衆院選と今の日本………谷口長世
◆衆院選の結果を踏まえ、安倍改憲を阻止するための法律家団体の役割………大江京子
◆憲法の危機を救うために──小選挙区制廃止を課題に………澤藤統一郎
■共闘はこうたたかわれた──各地の状況
 ◆北海道・“共闘”の底力になった討論型意見交換会の積み重ね………上田文雄
 ◆宮城・市長選挙の勝利を梃子に進められた野党共闘………新里宏二
 ◆新潟・組織も人間、人間は信頼、信頼は仲間をつくる………金子 修
 ◆沖縄・勝つまで闘い続ける オール沖縄は負けない!………赤嶺朝子


司法をめぐる動き・透明で民主的な最高裁裁判官の任命手続を──第24回最高裁裁判官国民審査を終えて………米倉洋子
司法をめぐる動き・10月の動き………司法制度委員会
判決・ホットレポート 神奈川建設アスベスト訴訟 東京高裁・横浜地裁判決………西村隆雄
メディアウオッチ2017●《選挙結果とトランプ来日》狙われたものは何だったのか 解散・総選挙、トランプ歴訪………丸山重威
あなたとランチを〈No.31〉………ランチメイト・斉藤とも子×佐藤むつみ
書籍紹介
時評●われわれはどこにいて、どこに向かおうとしているのか?………原 和良
ひろば●独裁者が好む「国民投票」と法律家の役割………飯島滋明


2017年衆院選──私たちは何をなすべきか

◆特集にあたって
 二〇一七年衆院選は、かつて例のない異常な選挙だった。
 安倍首相は、森友・加計学園問題で内閣支持率が急落する中、その究明から逃れ、野党統一の準備が進んでいない状況を利用し、臨時国会冒頭に解散権を濫用して衆議院を解散するという暴挙に出た。これに対し、民進党は小池百合子都知事を代表とする希望の党に合流することを決め、この段階で「市民と野党の共同」が消滅するという重大な事態となり、しかも、小池代表は公認の条件として安保法制と改憲の容認を求め、希望の党が改憲政党であることが明確となった。この事態が公示直前のことである。このように、安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民にとってまさに「壊滅的」危機の状況から二〇一七年衆院選は始まった。
 しかし、「市民と野党の共同」の復活を求める市民たちの声に推され、希望の党に合流しない議員たちが立憲民主党を立ち上げ、または無所属で出馬し、この勢力が市民連合との間で政策合意を結ぶことによって、共産党、社民党を含めた市民と野党の共同は維持され、市民連合と立憲野党の共同による選挙戦が展開された。
 衆院選の結果は、自公与党が改憲案発議可能な三一三議席を獲得し、安倍政権が継続した。安倍首相が提言した九条改憲の自民党案が年内につくられ、来年の通常国会で発議されると言われている。
 しかしながら、立憲野党の統一候補と与党の一騎打ちとなった小選挙区では、互角の戦いをし、また、無党派層では立憲民主党の支持が与党の支持を大きく上回った。市民連合を始め多くの市民が草の根選挙をし、共産党は六七人の候補者をおろし、社民党も協力し合った、その共同の結果が立憲民主党の大躍進となった。選挙には「もし」という言葉はないと言われるが、もし準備されていた市民連合と民進・共産・社民・自由の立憲野党の共同が維持され選挙戦が戦われていたら、と思わざるを得ない。
 これから、改憲問題が焦点となる。発議のためには衆参両院での三分の二の賛成、そして成立させるためには国民投票での過半数の賛成が必要である。議席ではなく投票した有権者の民意は、九条改憲を許さない草の根からの声が国民の中で大きいこと、他方、共同を分断されずに維持、発展させることの大切さを示している。
 この国は、間違いなく岐路にある。一人一人の自由と命を何よりも尊重し、その実現のため、平和主義、民主主義、基本的人権の尊重という基本原理を骨格とする憲法体制が壊されようとしている。安倍政治によって秘密保護法、安保法制、共謀罪法の採決が強行され、憲法の根本部分が壊されつつあり、そして、戦争への道の集大成として安倍九条改憲案が持ち出されている。
 この国の岐路の中で、改憲を阻止し、安倍政治を終わらせ、私たち一人一人の自由と命を守るために、いま私たちは何ができ、何をなすべきなのか、が問われている。

 本特集は、衆議院選挙の結果を踏まえ、日本の岐路とこれからの闘いをどのように考え、どのように展望を見いだしていくのか、闊達に論じようというものである。
 五十嵐論文は、今回の衆院選で立憲民主党が誕生し共闘体制が再確立されたことに展望を見出し、共闘体制は単に復活したのではなく、新たな内容を伴って刷新されたとし、これを生み出した力が本格的な市民政治の台頭にあることに着目する。
 インタビューで中野氏は、衆院選の結果について小池氏と前原氏のクーデター的な動きの中で、「何とかよく持ちこたえたな」との率直な感想を述べ、次の闘いの体制ができたとし、改憲問題では、憲法の理想を捨てるのか、それとも、理想をより現実にしていくために、これまでの歩みをさらに重ねていくのかが問われるとする。
 広渡論文は、市民連合というプロジェクトが安倍政治を新しい政治に変えることを目的とし、市民の力を接着剤にした野党の共闘という道筋でそれを実現することに特徴があり、市民の政治参加と民主主義のエネルギーをひきだす可能性をもっていると展望する。
 大江論文は、安倍九条改憲を阻止することが法律家団体の役割とし、憲法の非軍事の積極的平和主義こそが、二一世紀の世界の安全保障の極めて現実的な形である、立憲主義原理のもと憲法改正の発議には限界がある、という国民に語る視点を提供する。
 澤藤論文は、自民党の議席数は小選挙区制のマジック効果であるとし、大量の死票を生み出す小選挙区制の原理的欠陥と小選挙区制における投票価値の不平等に言及し、小選挙区制の廃止が喫緊の課題と指摘する。
 インタビューで谷口氏は、世界は軍需産業のグローバル化など米主導のもと動いており、日本に対する軍需産業の下請化が狙われている中で、日本を守ってきた憲法九条を捨て去ることの愚かさを指摘し、野党が市民の側にいること自体をドクトリンとすべきとし、市民と野党の共同への期待を述べている。
 北海道、宮城、新潟、沖縄から衆院選の闘いを寄稿して頂いた。闘いのやり方は各地の個性があるが、討論型の意見交換会を積み重ねて市民と政党が信頼を深めたこと、市民が具体的な政策と新しい政治をつくる展望を持つこと、市民と野党が共同すれば勝利できるという確信を持つこと、諦めないで粘りづよく闘うことなど、他の地域でも教訓となる瑞々しい報告がなされている。

 国会内での立憲野党の共闘、国会外での草の根の市民の活動の共同を深化・発展させ、改憲阻止と安倍政治を終わらせる展望を切り拓く上で、本特集が少しでも役立てば幸いである。

「法と民主主義」編集委員会 南 典男


時評●われわれはどこにいて、どこに向かおうとしているのか?

(弁護士)原 和良
1 2017年という年
 2017年も、早いもので終わりに近づいてきた。圧倒的多数を占める自公政権・安倍内閣は、数の力を背景に今年憲法改正に向けた準備を整えるはずであったが、通常国会では、森友学園の国有地低額払い下げ問題、加計学園への異様な獣医学部開設許可問題などで、国民・市民と野党の大反撃にあった。
 10月に行われた解散総選挙は、窮地に立った安倍政権の「追い込まれ」解散であったのに、民進党の自爆により野党共闘が壊され、結果的には与党の勝利に終わってしまった。
 どう嘆いても、結果は結果である。ここから次を考えるしかない。
2 100年前
 こんな時は、少し長い歴史のスパンで、今われわれがどこからきてどこに向かっているのか、100年単位で考えるもの大事な視点だと思う。
 今から100年前、1917(大正6)年は日本にとってどんな年だったのだろうか?
 日本は、まさに大正デモクラシーの最盛期で、藩閥政治に反発し、立憲主義、民主主義を求める民衆の運動が昂揚した時期である。普通選挙実現運動、言論・集会・結社の自由を求める運動、男女平等や部落解放を求める運動、団結権・ストライキ権の確立を求める運動、などが全国で取り組まれた。
 国際的には、この年にロシア革命が勃発し、11月(旧暦10月)にはレーニンが世界で初めて社会主義政権を樹立した。革命政権が宣言した民族自決の権利や社会権の概念は、今の国際社会にも大きな影響を与えているものである。
 ポツダム宣言では、「日本政府は日本国民における民主主義的傾向の復活を強化し、これを妨げるあらゆる障碍は排除すべきであり、言論、宗教及び思想の自由並びに基本的人権の尊重は確立されるべき」(第10条)とされているが、ここにいう民主主義的傾向の復活とは大正デモクラシー期のことを意味していると言われるところ、それは未だ現在においても達成されていない。
 それから100年。今、立憲主義や民主主義、表現の自由と報道の自由、生存権や労働権などの社会権が瀕死の状態にあることを見るにつけ、この100年間、人類は進歩したのだろうか、という悲観的な思いになるのは私だけではなかろう。

3 100年後
 果たして今の政治家は、そしてその政治家を選挙で選ぶ私たち国民は、100年後の日本や国際社会を展望して今という時代を生きているのだろうか。
 今年ベストセラーとなった「未来の年表」(河井雅司著・講談社現代新書)では、日本の人口減少はこのままだと今後継続し、高齢化を伴いながら、100年後には、今の1億2000万人の人口が、半分以下の5000万人に減るというショッキングなシミュレーションを紹介している。他方で、世界の人口は、今の73億人の人口は数十年後には100億人を突破し、深刻なエネルギー不足、食糧不足に陥ると言われている。
 単純に、人口が多い方がよいとか少ない方がよいとかいうことではないが、日本という国のシステムが変化に適応して変わらなければ、今の生活形態が維持できないことは明らかである。
 しかし、100年先を見越した有効な対策が打たれているとはいいがたい。
 ミサイルが飛んでくるとか飛んでこないとかも、今年騒ぎになったが、危険な原発は全国至るところに配置されたままであり、矢部浩治氏が指摘するように、沖縄のみならず東京の空も陸も他国に占領されたままである。

4 楽観論
 それでも、ないものを嘆いてもしょうがない。到達点は冷静に見ることが必要だ。
 数の力による横暴は、小選挙区制というインチキな選挙制度により作られた虚構の多数である。この間、国会では少数である野党が国民・市民と共闘して多数派を追い詰める実績を作ってきた。とりわけこの間の参議院選挙、衆議院選挙では、国民・市民が、自分の支持しない政党に戦略的に投票をして多数派を追い詰めるという戦後初めての政治経験をしたことの意味は大きい。これからも、紆余曲折が続くであろう。しかし、着実に歴史は前に進んでいると私は思いたい。
(はら かずよし)


ひろば●独裁者が好む「国民投票」と法律家の役割

 「あらゆる者の自由と平等」という理念が現世に於いて実現されてきたという「世俗化史観」に依拠し、ヴァイマール共和国の国法学者ヘルマン・ヘラーは、「あらゆる者の自由と平等」という理念を根底から否定する「独裁」ではなく、そうした理念をさらに進化させた「社会的法治国家」こそがドイツの進むべき道であると市民に訴え続けた。ヘラーの訴えはドイツ社会の受け入れるところとはならず、ヒトラー独裁体制は多くの人々の尊厳を蹂躙した。ヘラーの「社会的法治国家」論はドイツ連邦共和国基本法に受容されるなど(20条、28条)、ヘラーは戦後ドイツで高い評価を得ている。
 国法学者ヘラーのあり方は、法を専門とする私たちに有益な示唆を与える。つまり、「危機の時代」に際し、ヘラーは法律家としての「あるべき姿」を私たちに提示していると思われる。
 2017年10月の選挙で自民党と公明党は3分の2以上の議席を獲得した。日本維新の会や希望の党などを含めれば、改憲勢力は5分の4ちかくになる。安倍首相は憲法改正に邁進することを明言している。その中心は憲法9条の改正であり、「戦争できる国づくり」である。紙幅の関係で結論だけ述べれば、『法と民主主義』でさまざまな論者が指摘してきたように、安倍首相の目指す憲法改正がなされれば、たとえば自衛隊――「国防軍」などに変わっているかもしれない――
が世界中で戦うことが可能になる。
 自衛隊が世界中で戦うことが可能になる憲法改正を目指す安倍政権に、私たちはどう向かい合うべきか。とりわけ憲法改正国民投票を視野に入れた対応が求められる。国民投票といえば、主権者の意志を直接表明する手段として好意的に受け入れられるかもしれない。しかし、「独裁者ほど国民投票を好む」のであり、フランスではナポレオン1世や3世、ドイツではヒトラーが国民投票を悪用して自己の地位や政策を強化してきた歴史がある。主権者である国民の意志を問うためでなく、権力者の地位や政策を強化するために権力者が悪用する国民投票はフランス憲法学で「プレビシット」と言われる。国民投票について議論をする際には、常に「プレビシット」の危険性に配慮する必要がある。
 この点、2007年に安倍自公政権下で成立した「改憲手続法」(憲法改正国民投票法)は、主権者の意志を正確に表明させるためではなく、権力者に都合の良い結果が出やすい制度、「プレビシット」の危険性をはらむ国民投票制度になっている。
 そして憲法改正国民投票が実際に行われるのはどのような時か。憲法改正を目指す安倍首相や自民党に都合の悪い結果が出る可能性が高い時、権力者は国民投票を行うだろうか?
 2016年6月、イギリスで行われた国民投票でEU離脱という結果が出たため、キャメロン首相は辞意を表明した。住民投票でも、2015年5月17日に実施された「大阪都構想」の是非を問う住民投票で反対票が多数となったことを受け、橋下徹氏は大阪市長を辞職した。国民投票で示された意志が権力者の思惑と異なることが明白になったとき、権力者は事実上、辞任に追い込まれる。そうしたことを前提とすれば、権力者が国民投票を行うのは、権力者にとって都合の良い結果が出る可能性が高い時、すなわち、安倍政権が北朝鮮や中国の脅威をさんざん煽り、一部の「権力の番犬」に成り下がった「御用メディア」も政府の宣伝に加担し、多くの国民が憲法9条の改正に賛成していると権力者が判断した時の可能性が高い。
 ただ、権力者や一部の御用メディアがそうした動きを見せるときこそ、法律家の真価が問われる。社会が危機的状況に向かおうとしている時、市民に社会の危機との警鐘を鳴らし、その問題点を社会に提起するのは法を専門とする者の社会的責務であると思われる。具体的には、自衛隊を憲法に明記する憲法改正の問題点、国民投票が「プレビシット」になる危険性を、法律家は市民に提示することが求められる。

(名古屋学院大学 飯島滋明)