日本民主法律家協会

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法と民主主義

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法と民主主義2018年1月号【525号】(目次と記事)

特集★核なき世界をめざして
◆特集にあたって………編集委員会・小沢隆一
◆核時代の法ニヒリズムに挑戦する朝鮮半島核問題の解決めざして………浦田賢治
◆核兵器禁止条約(TPNW)の内容とその意義………山田寿則
◆禁止条約を押し上げたもの──日本と世界の運動から………土田弥生
◆日本は主体的に「不参加」を選んだ…「核抑止論」の呪縛重く 日米の外交と核兵器禁止条約………太田昌克
◆ノーベル賞授賞式に出席して………田中煕巳
◆「核の時代」における憲法九条の意義─反核・平和を貫いた池田眞規弁護士がのこしたもの─………大久保賢一


連続企画●憲法9条実現のために〈17〉朝鮮危機を改憲に利用するな………梓澤和幸
司法をめぐる動き・共謀罪の廃止から警察の監視へ──廃止運動が濫用の歯止めとなる………海渡雄一
司法をめぐる動き・12月の動き………司法制度委員会
メディアウォッチ2018●《二〇一八年のジャーナリズム》改憲への「危機感」乏しく 南北会談、「核の傘」にも冷笑的………丸山重威
あなたとランチを〈№33〉………ランチメイト・牛山 積×佐藤むつみ
トピックス●「憲法改正」手続からみた改憲阻止運動の焦点………南 典男
改憲動向レポート〈№1〉「声なき声に耳を傾ける」ことを明言する安倍首相………飯島滋明
時評●人類の夢は現実に!………新倉 修
ひろば●「若者」について………辻田 航


核なき世界をめざして

◆特集にあたって
 世界と日本が大きな歴史の岐路にあることをひしひしと実感させてくれる二〇一八年の幕開けです。
 昨年七月の国連会議で採択された核兵器禁止条約は、その発効に向けて各国による署名と批准が進められつつあります。広島・長崎の惨害から七〇余年、人類が切望してきた「核兵器のない世界」の実現に向けた歩みが、禁止条約という形で前に進められようとしている中、日本政府は、これに背を向けています。安倍晋三首相は、一月に来日したフィンICAN事務局長との面談も拒みました。その一方で、北朝鮮の核ミサイル開発に対しては、軍事力行使も辞さない強硬路線をとるアメリカトランプ政権に追随しつつ、「対話のための対話は意味がない」、「(平昌オリンピック参加を通じた)北朝鮮の『微笑外交』を警戒する」などとして、問題の平和的解決をむしろ阻害する「先兵」の役割を担っています。そして、こうした北朝鮮の脅威などを口実の一つにして、九条改憲、その年内の発議をもくろんでいます。
 「核兵器のない世界」を実現するべく条約の発効をめざすとき、それがどれほど大きな意義をもつのかについて歴史的に検証すること、条約が規定している核兵器に関する禁止項目と核兵器廃絶への筋道を正確に理解すること、そして、この条約に敵対する勢力やその論理を的確に把握し、批判することが不可欠です。また、核兵器廃絶をめざして粘り強く取り組まれてきた運動とその力を学ぶことも大切です。これらを「ひとまとめ」に扱おうという本特集は、いささか「欲張り」な企画ですが、それぞれのテーマについて、最もふさわしい寄稿者を得て、健筆をふるってもらいました。

 巻頭の浦田賢治論文は、一九四五年に始まる「核時代」における国際政治の中での「科学者の社会的責任」という視点から、日本と朝鮮半島の歴史を振り返りつつ、今日の朝鮮半島核問題を解析しています。これらに基づく「平和的解決を追求するための力による関与ではなく前提条件なしの対話が必要」という提言と、朝鮮脅威論に立つ安倍政権の憲法九条改悪策動阻止に向けての法律家への呼びかけを、しっかりと受け止めたいと思います。
 核兵器禁止条約の内容と意義に関する山田寿則論文は、この条約の策定過程や国際社会における核兵器に抗する動きを長年にわたり第一線で研究し続けてきた国際法学者による条約の「読み方」の手引きです。条約の各条項についての懇切丁寧な解説と、それを踏まえた条約の意義と課題に関する専門的知見をぜひご堪能ください。
 核兵器禁止条約は、被爆者をはじめ平和を求める多くの人々の長年にわたる「核兵器のない世界」をめざす運動の到達点として採択されたものです。土田弥生論文は、その長い道のりとさまざまな取り組みについて、読者に理解しやすくコンパクトに伝えてくれています。原水爆禁止運動の中軸を担い、その中で多くの取り組み、海外の運動との交流に関わってこられた筆者ならではの論稿です。ここから日本の原水爆禁止運動の豊かな成果と実績を学ぶことができます。また、この運動の中で果たした法律家の役割にも触れられており、本誌の読者にとって貴重です。
 太田昌克論文は、核兵器と原発に関する膨大な取材のなかから貴重な記事や著作を公にしてきたジャーナリストによる、核兵器禁止条約に背を向ける日本政府の姿勢、その背景、その論理についての鋭い分析と告発です。本稿を通して、日米安保体制の「暗部」に潜むもの、そこにおける論理(と非論理)をしっかりと見極める目を養うとともに、そのことを多くの人々と共有する必要性を痛感させられます。
 ICANの推薦によってノーベル平和賞授賞式に参加された日本被団協事務局長の田中煕巳氏からは、授賞式の様子を紹介し思いを語る論稿を寄せていただきました。長年にわたり被爆者運動に関わってこられた立場からのメッセージをしっかりと受け止めたいと思います。資料として、授賞式におけるサーロー節子さんの演説も載せました。
 大久保賢一論文は、憲法九条を守り核兵器に反対する法律家運動の牽引者であった故池田眞規弁護士の足跡を振り返り、その業績から学ぶものや後進に託された課題などについて論じています。昨年刊行された池田弁護士の遺稿集『核兵器のない世界を求めて』(日本評論社)と合わせてお読みください。

 昨年来、平和の実現に逆行する日本政府の姿勢を正そうと、二つの署名運動が全国的に取り組まれています。一つは「安倍9条改憲NO!全国統一3000万署名」、もう一つは「ヒバクシャ国際署名」です。本特集の各論稿がそれぞれに語るように、核兵器禁止条約を実効化による核兵器のない世界の実現と、憲法九条の改悪を阻止してそれを実現させる国をつくることは、一方の前進・実現が他方の前進・実現の条件となる、相互依存的な関係をもつ密接に結び付いた「車の両輪」のような課題です。こうした二つの署名の活動を通じた国民・市民のなかでの旺盛な語らいの中から、平和と民主主義を創造する力は培われてくるのでしょう。本特集が、そうした語らいと活動を広げる一助となれば幸いです。

法と民主主義編集委員会・小沢隆一


時評●人類の夢は現実に!

(弁護士・青山学院大学名誉教授)新倉 修
 2017年7月7日、盧溝橋事件80周年に際して、世界は新しい段階に入った。核兵器の使用・使用の威嚇のみならず、製造・配備・実験・貯蔵のすべてが国際条約で禁止されることになった。国連総会で交渉会議を開催することを決定した後、軍縮会議が開催されるジュネーブではなく、ニューヨーク本部で、核兵器を禁止する法的に拘束力のある文書を交渉し、究極的に核兵器の包括的な禁止を目指す国連会議が3月と6月の2期に分けて開催され、その成果がこれであった。

 国連加盟国193の内、条約の採択に賛成した国は122であり、反対はNATOに加盟するオランダだけであり、棄権はシンガポールだけであった。しかし、そもそもこの交渉会議を無意味だとしてアメリカ、イギリス、フランスなど核保有国はこぞって会議をボイコットした。これに同調する「核の傘」による抑止力を支持する国は30に上り、日本政府もわざわざ会議の冒頭で不参加を表明して(本誌前号の宮原哲朗氏の時評参照)、これに同調した。
 核兵器不拡散条約も視野に入れると、世界は3つのグループに分かれる。
 Aグループ122カ国は核不拡散条約にも核兵器禁止条約にも賛成する。
 Bグループは、核不拡散条約に参加するものの、核兵器禁止条約には参加しない。
 Cグループは、イスラエル・インド・パキスタン・北朝鮮など、いずれの条約にも参加していない。

 年末には、この条約の署名国はすでに53カ国にのぼり、そのうち50カ国が批准すれば、条約は発効する。そのときには、世界は改めて、締約国会議を通じて、核兵器の廃絶のために具体的な目標と行程を決めて、究極的に人類を核兵器の脅威と負担から解放することになる。もちろんその道程は決して平坦ではないが、世界諸国がB・CのグループからこぞってAグループに移行すれば、道筋はずっと見通しがよくなるはずである。これが条約法に関するウィーン条約に定めるように、不可逆的なプロセスとして進行すれば、人類の夢は現実となる。核保有国でも、比較的に実行可能な基準で批准加盟することができ、加盟後に核兵器の査察と廃止の手続を履践すればよく、また条約加盟国に対する核兵器による武力の行使はもちろん、武力による威嚇も違法とされるので、国際法の基本原則である「比例原則」に従って法的な意味での安全保障は確実なものとなる。

 実はこれこそが、日本国憲法前文でうたっているように、政府の行為による戦争の惨禍を防止し、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を確認し、実現する確かな道筋である。核兵器禁止条約によって、マンハッタン計画がもたらした「悪魔の兵器の威嚇と抑止による平和の維持」という矛盾した悪夢からはじめて人類は解放され、70年前に孤灯を掲げた日本国憲法の「理想主義」にやっと現実が追いつくことができるようになったわけである。

 12月10日、オスロでノーベル平和賞の授賞式が開かれた。核兵器禁止条約の採択への貢献が評価されて、ICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)が受賞し、事務局長のベアトリス・フィンさんと被爆者の代表、広島・長崎の市長が式典に臨んだ。キリストの誕生を東方の3博士が祝福したように、この条約を生み出した民衆の叡智と努力は、北欧の2カ国に誕生したノーベル賞機構から手厚く讃えられた。

 この運動は、グローバル9条キャンペーンにも連動し、国連総会で採択された「平和への権利宣言」の内容をいっそう豊かなものにして、平和権条約をも実現する国際的なウネリに繋げることが大事だと思う。自衛隊の貢献を改憲して讃えるという小知恵は、全地球規模で9条の理念を実現する運動によって乗り越えられる。
(にいくら おさむ)