特集★安倍9条改憲を許すな
◆特集にあたって………編集委員会・小沢隆一
◆自民党9条改憲案の論理──「自衛の措置」と「指揮監督」を中心に………浦田一郎
◆自民党9条改憲と日米安保体制………末浪靖司
◆自民党の緊急事態条項議論を過去から問い直す意味………榎澤幸広
◆「立憲的改憲論」の問題点………清水雅彦
◆改憲手続と国民投票をめぐって………井口秀作
◆ブレグジットと日本国憲法改正………成澤孝人
連続企画●憲法9条実現のために〈18〉平和安全法制に対する現職自衛官のたたかい………三角俊文
司法をめぐる動き・福島原発事故損害賠償訴訟3判決について………大森秀昭
司法をめぐる動き・3月の動き………司法制度委員会
メディアウオッチ2018●《ウソと隠蔽の時代》具合の悪いものは隠す、直す、捨てる…… 政治を動かす市民の力を自覚しよう………丸山重威
あなたとランチを〈№35〉………ランチメイト・内野光子さん×佐藤むつみ
改憲動向レポート〈№3〉9条改正を「今を生きる政治家、自民党の責務」と主張する安倍首相………飯島滋明
トピックス●自民党改憲案に反対する2つの声明………小沢隆一
時評●「森友」問題の新展開………上条貞夫
ひろば●法と民主主義の危機………高見澤昭治
◆特集にあたって
羊頭狗肉な自民党大会
二〇一八年三月二五日、自民党大会が開催され、この間検討してきた「改憲四項目」について、その基本的方向性が了承されました。この日採択された運動方針では、最初の項目で改憲を取り上げ、「憲法審査会での幅広い合意形成を図るとともに、改正賛同者の拡大運動を推進する」と記されました。安倍晋三首相(総裁)は、こぶしを振り上げながらの演説で、改憲への檄を飛ばしましたが、「本命」の九条改憲については具体的な条文案を示さないままの羊頭狗肉な大会でした。この間の「森友・加計」問題や「自衛隊日報」問題などなど、「ウソとごまかしの政治」のツケが回っているのでしょう(これについては、次号で特集します。乞うご期待!)。
改憲反対運動の力で安倍内閣を倒そう
こうした状況の中、「とても改憲どころではない」という政局をめぐる「相場観」も流されていますが、私たちは、「安倍九条改憲NO!」の運動の力を決して弱めるわけにはいきません。改憲反対運動の力で安倍内閣を退陣に追い込むことがぜひとも必要です。改憲策動の息の根を止める絶好のチャンスが、今なのです。日本国憲法施行七一年の五月三日が、この憲法を守り活かす運動の空前の盛り上がりで迎えることを期して、「安倍九条改憲を許すな」の特集をみなさんにお届けします。
自民党改憲案の問題点をあぶり出す
自民党が党大会で九条改憲案の「絞り込み」を見送ったのは、国会内での各党との調整よりも前にその問題点が国民の前で白日のものになることを避けたかったからです。その意味では、自民党の条文化先送りは「想定内」の作戦です。そうであれば、私たちは、自民党の改憲案の問題点を、「先回り」して暴露することが肝要です。巻頭の浦田論文は、自民党の九条改憲案の問題点を、長らく「政府の九条解釈」の研究に携わってきた視角から明らかにしています。続く末浪論文は、九条改憲と日米安保体制との密接な関連を、戦後政治史の中からあぶりだしています。榎澤論文は、自然災害時の対応であるかのように装いながら実は軍事的有事への対応も包みこむ自民党の緊急事態条項改憲案の批判的検討です。
自民党の「改憲四項目」は、これ以外にも「(参議院選挙での)合区解消・地方公共団体」と「教育充実」(「教育無償化」から変容)があります。これらも九条改憲や緊急事態条項と負けず劣らず重大な問題点を含んでいます。これらについての指摘は、本号掲載の憲法研究者声明(五六頁)や改憲問題対策法律家六団体声明(五八頁)を参照してください。
改憲反対運動の結束を壊すな
早くは二〇〇六年の安倍第一期政権下での教育基本法改悪、翌年の憲法改正手続(国民投票)法の制定に始まり、二〇一二年からの第二期政権での特定秘密保護法、安保法制(戦争法)、共謀罪などによる現行憲法体制の掘り崩し(壊憲)策動が進められる中、これに反対する運動は、粘り強い協力と、そのなかで培った信頼(リスペクト)関係によって、共闘の構えを作りあげてきました。この間、改憲側の策略も強まり、いろいろと紆余曲折があったものの、この「構え」は簡単に崩れるものではありません。また崩してはなりません。
そのためにも自民党などの改憲策動に手を貸すような動きには、細心の注意と、共闘の原則に基づく批判が必要です。いわゆる「立憲的改憲」論なるものへの批判的検討を清水論文にお願いしました。
憲法改正手続・国民投票の問題性をみすえて
この間「自民党は二〇一八年内の改憲発議を画策」と報じられてきましたが、前述のような自民党大会や「政局」の様子から、改憲発議がいつになるのか「五里霧中」の状況です。しかし、改憲発議の時期や、またそのあるなしに関わらず、現在の憲法改正手続とりわけ国民投票の制度的な問題点について熟知しておくことが、改憲反対運動の側にも求められるでしょう。井口論文は、そうした改憲手続と国民投票をめぐって、「今知っておくべきこと」についての論稿であり、清水論文が取り上げる「立憲的改憲」論の問題性の一端も示しています。なお、改憲手続全体について具体的に論じたものとしては、田中隆「『安倍改憲』と改憲手続法」(前衛九六一号二〇一八年五月)も参考になります。
「改憲国民投票が一体どのような状況下で行われるか」。これまで一度も経験したことのない(当然のことながら明治憲法下も含めて)日本の国民にとって、さまざまな憶測が飛び交いうる「未知の世界」です。それでも「いざという時」への心の備えは必要でしょう。「想定外の事態」が起きても呆然とするわけにはいきません。そのためにも歴史と諸外国の事例に学ぶ必要があります。
二〇一六年六月のイギリスのEU離脱を決めた国民投票は、どうやら「トランプ旋風」が吹き荒れた同年のアメリカ大統領選挙によく似た「フェイクの嵐」だったようです。その様子は、クレイグ・オリヴァー(江口泰子訳)『ブレグジット秘録』(光文社・二〇一七年)がよく伝えてくれます。原著者は、国民投票当時のキャメロン首相の側近で、政府による「残留」キャンペーンの責任者です。この本のなかの「敗北の総括」から、煽情的な雰囲気の下での国民投票の怖さがよく伝わってきます。「そのようなことにならないために、どうする。何を考えるべきか」。成澤論文には、このことを論じてもらいました。
自民党の改憲案は、とくに九条についてまだ確定的なものではありません。彼らは、世論の反発、批判を恐れて、今すぐには堂々と提起することができない状況にあります。そうであるならば、私たちが、それらの危険性をはっきりと世に知らせることで、これに反対する世論を大いに盛り上げ、彼らがそれを「使う」、すなわちこれらの案を元に改憲を発議することなど、「とてもできない」という情勢を作り出すことが大切です。これら危険な改憲案の発議を絶対に未然に阻止しましょう。現在取り組まれている「安倍九条改憲NO!三〇〇〇万人署名」の早期達成、完遂は、そのための重要な足がかりです。
「法と民主主義」編集委員会 小沢隆一
(弁護士)上条貞夫
学校法人「森友学園」に、国有地が不動産鑑定価格から9割(8億円)も値引きして払い下げられた事実が判明して、「森友疑惑」──安倍首相と昭恵夫人の関与した「特例」──の国会追及が開始された。これに対し安倍首相は「私や妻が(国有地取引に)関係していたということになれば、総理大臣も国会議員も辞める」と答弁(2017年2月17日衆院予算委員会)。
その1年後、2018年3月2日の朝日新聞が「国有地売却に関わる財務省の決済文書の中に改ざんがあった」と報道。その直後、3月9日、佐川国税庁長官(国有地売却当時の国税局理財局長)が辞任。3月12日、財務省理財局が調査結果を国会報告(その国有地払い下げに関する財務省の2014?2016年の決済文書が、14件300箇所も改ざんされた。改ざん時期は、2017年2月下旬以降から4月)。
この改ざん前の決済文書には、「特例承認」の「経緯」として、そこに安倍首相夫人と安倍首相のことが特記されていた。例えば、2015年2月4日付決済文書には、打合せの際「安倍昭恵総理夫人を現地に案内し、夫人からは『いい土地ですから、前に進めて下さい。』とのお言葉をいただいた。」との発言あり(森友学園籠池理事長と夫人が現地で並んで写っている写真を提示)。2015年4月30日付決済文書には、籠池理事長が「日本会議大阪代表・運営委員」であり、日本会議と連携する組織として超党派による「日本会議国会議員懇談会」が平成9年5月に設立され、現在、役員には特別顧問として麻生太郎財務大臣、会長に平沼赳夫議員、副会長に安倍晋三総理らが就任していること、「森友学園への議員等の来訪状況」の中に「平成26年4月 安倍昭恵総理夫人 講演・視察」と書かれていた。
「安倍昭恵総理夫人」から森友学園理事長が「いい土地ですから、前に進めて下さい」と言われた、同理事長は「日本会議大阪代表・運営委員」であり「日本会議国会議員懇談会・副会長」安倍晋三総理と同じ立場の右翼団体に組属している、ということが「特例承認」の理由であることを十分に窺わせる記述である。安倍首相が「それが事実なら総理大臣も国会議員も辞める」と答弁した直後「2017年2月下旬以降から4月」に、この記述を含めて14件300箇所も、国有地売却に関わる決済文書から抹消された。それを翌年3月2日の「朝日」が報道するまで1年間も、財務省は改ざん済みの決済文書を国会に提出して国会と国民を欺いていた。
いったい、この大仕掛けの改ざんは、誰が指示したのか、その動機は何か。2018年3月27日、国会証人喚問に立った佐川・前国税庁長官は、4時間で40回以上、改ざんに関する説明を拒否した。でも、これまでの経過から、真実は国民の眼の前に明らかになっている。「財務省理財局の一部の職員によって行われた」という麻生財務相の言い訳は、到底通用しない。
こんな「首相案件」の「特例承認」は、国民が許さない。安倍内閣は即刻退陣すべきである。
◆9条の現在
2017年5月3日、安倍首相は「2020年までに憲法9条改定」を宣言した。以来、自民党は2018年3月25日の党大会でこの動きを一気に加速させる準備を進めてきたが、「森友」問題が政権を直撃して内閣支持率が急落した中で、年内の国会発議は困難な状況になった。けれども、いま自民党の「憲法改正推進本部」は、安倍首相が当初、9条の1項、2項を残して「9条の2」に、必要最小限度の実力組織として自衛隊を保持する、という案を提唱していたことを更に超えて、「自衛の措置」のための実力組織として自衛隊を保持する、という案を構想している。「自衛の措置」とは「自衛権」=集団的自衛権も含まれる。政府の判断一つで、集団的自衛権の全面的な行使、海外での無制限な武力行使も可能になる。9条2項(戦力及び交戦権の否認)を死文化することは、決して許されない。
(かみじょう さだお)
日本国の現状は、一口で言うならば、まさに混迷の極みにあり、それを解決する方向も方法も見出せない状況にあると言っても過言ではないであろう。
安倍首相やその妻が、直接、指示したり、依頼したかどうかはともかくとして、森友学園や加計学園などについて、権力内部で安倍首相に対する「忖度」が横行し、不正義が行われていることは、間違いのない事実である。それにもかかわらず、責任を曖昧にするために、官僚達が勝手に文書を改ざんしたり、廃棄し、たとえ国会で追及されても、事実を歪曲し、いい加減な答弁を繰り替えすという事態が横行している。
このような現状を改善するには、文書管理の在り方について抜本的な制度改革が必要なことは言うまでもないが、その根本原因としては、戦前から続く中央集権的な国家体制の下で、保守政権が官僚を取り込んでそれを牛耳っているのに、野党が細かなことでいがみ合って一致団結できず、これを許してきた実態があることは確かと言えよう。
平和の関係では、専守防衛を建前とする自衛隊を南スーダンやイラクに派遣し、その地がどのような戦況にあり、そこで自衛隊が何をしたかを記録した日報を隠匿してきたことは、憲法9条を無視して、日本を軍事行動も含めたアメリカの同盟国として強化することに繋げるためとしか考えられない。
ところで、上記の問題もさることながら、長く続く国内の人権状況や司法問題の深刻さも、恐るべき状況にある。
原発事故で甚大な被害を生じたにもかかわらず、大資本の意向を気遣って原発を次々と再稼働させるという、国民の生命身体の安全を考えたら絶対にあるまじき決定を政府がする一方、原発裁判をめぐる司法判断も右往左往する体たらくで、日本では、もう一度、原発が暴発しない限り、完全に止めさせることはできないのかと憂慮せざるをえない。
こうした事態をもたらした原因として、最も悔やまれるのは、司法改革の失敗を指摘せざるをえない。中途半端な裁判員制度の導入で官僚司法制度を維持・存続させてしまい、さらに今や人権を重視する国家では稀有となった死刑制度──国家による殺人──の存続と、冤罪被害者の救済の立ち遅れも指摘せざるをえない。検察官の横暴を阻止するために、後者については再審法の制定は、まさに急務である。
ところで、「法と民主主義の危機的状況」という表題を見て、本誌『法と民主主義』が危機的状況にあると誤解されたら、それは全くの間違いである。バックナンバーを見ても、各号ともその時々の重要なテーマを取り上げ、敢然と取り組んでいることが分かる。
今後も、人権と社会正義、平和と民主主義を実現するために、司法問題を中心に、立法・行政についても問題点を広く取り上げ、また、新たな会員を増やすためにも、著名なあるいは中堅の学者や弁護士だけでなく、現実に厳しく向き合い、改革を進めようとする若い法律実務家や法学研究者たちに、できるだけ執筆活動に参加する機会が与えられたらと考える。そのことによって内容がより斬新なものとなり、マスコミなどを含め、法律家以外にも、さらに広く読まれる雑誌になることを期待したい。
(弁護士 高見澤昭治)