日本民主法律家協会

法と民主主義

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法と民主主義2018年7月号【530号】(目次と記事)

特集★自衛隊の実像
◆特集にあたって………編集委員会・澤藤統一郎
◆旧軍と自衛隊 シビリアン・コントロールの視点から………纐纈 厚
◆「防衛計画の大綱」改定への動向………大内要三
◆現代の戦場経験から考える自衛隊の憲法明記問題………清末愛砂
◆防衛大学校の「教育」と人権侵害の実態………佐藤博文
◆自衛隊関連文献解説・文献編 読書ノート・自衛隊………小沢隆一
◆自衛隊関連文献解説・漫画編 漫画に描かれた自衛隊………澤藤大河


司法をめぐる動き・始動した日本版「司法取引」制度………白取祐司
司法をめぐる動き・6月の動き………司法制度委員会
メディアウオッチ2018●《ニュースによるメディア支配》「デタラメ政治」支持する無批判報道 「どさくさ紛れ」の安倍戦略も………丸山重威
あなたとランチを〈№38〉………ランチメイト・松岡 肇先生×佐藤むつみ
BOOK REVIEW『GENJIN刑事弁護シリーズ 共謀罪コンメンタール──組織犯罪処罰法六条の二の徹底解説と対応策』を読む………松宮孝明
改憲動向レポート〈№6〉改憲による「緊急事態条項」導入が必要ないことを自らの対応で証明した自民党………飯島滋明
インフォメーション………米倉洋子/南 典男
委員会報告●憲法委員会………大江京子
時評●国家の実力組織は何によって正当化されるのか──立憲主義と「加憲」的改憲論の緊張をめぐって………横田 力
ひろば●「法民賞」の選考委員を担って………加藤文也


自衛隊の実像

◆特集にあたって
 いま、「安倍九条改憲」の阻止が、憲法運動における焦眉の課題となっている。その具体的内容は、九条一項および二項を残したままで、九条の二を付加して、「自衛隊の存在を明記する」ものだとされる。
 安倍首相(総裁)自身が、国民に向けて「現在の自衛隊を合憲であると明確にするだけ」のことであって、実質的に何の変更もないと宣伝に務めているが、その虚偽性は既に明らかと言えよう。
 しかし、自衛隊を憲法上の存在として確認することの正確な意味や影響を論じるには、現在の自衛隊の何たるかを多面的に明らかにする必要がある。限定的にもせよ集団的自衛権の行使を容認した安保法制(戦争法)成立後の自衛隊の法的位置付については、活発な論争ががなされてきたが、自衛隊の実態把握という点での議論は必ずしも十分とは言えないのではないか。
 最近の自衛隊をめぐる諸事件の数々には、慄然とせざるを得ない。イラク・南スーダン派遣自衛隊の日報が破棄・隠匿されていたこと、防衛省統合幕僚監部の三等空佐が野党国会議員に「国民の敵」「国益を損なっている」などと執拗に面罵したことなど、安倍政権下で自衛隊の体質が変化しつつあるのではないか、隊員の意識構造に変化が生じているのではないか、と危惧せざるを得ない。
 本特集は、安倍九条改憲案が、憲法上の存在として位置づけようという自衛隊と、隊員の実像をリアルに把握するための論稿集である。
 その視点は、何よりも軍隊(戦力)としての自衛隊の実態である。これまで「専守防衛」に徹するとされてきた自衛隊の実態は安保法制下、どう変容しようとしているのか。また、実力組織としての自衛隊を統制する仕組みは、今どうなっているのか。統帥権干犯を口実に暴走を始めた旧軍の歴史の教訓はどう生かされているのだろうか。そして、にわかにクローズアップされてきた、自衛隊体内とりわけ幹部教育における人権侵害の実態は、どうなっているのか。
 本特集六論稿の概要をご紹介しておこう。

◆「旧軍と自衛隊 シビリアンコントロールの視点から」(纐纈厚・明治大学特任教授)は、自衛隊の文民統制が危うくなりつつある現状を詳細に論述している。「文民優越の原則を守ることによってのみ民主と軍事は共存可能である」との前提から、「文民統制は戦後民主主義を断乎として守りぬくためにその実効性を求めて絶え間なく関心を抱き続けるべきであろう。なぜならば、私たちは素手で実力組織を統制していく宿命を負っているのだから」という指摘は重い。

◆「防衛計画の大綱改定への動向」(大内要三・ジャーナリスト)は、防衛大綱の見直し問題である。現在の「二五大綱」(平成二五年策定)が、道半ばで賞味期限が切れたとして、「本年末を目指して」改定検討中だという。これについて本年五月に発表された自民党の「提言」と報道を分析の結果、「これまでも匍匐前進的に進化を続けてきた自衛隊は明らかに外征軍となる。「専守防衛」と言っても海外では誰も信じないだろう。安倍政権が憲法で認知させようとしている自衛隊の実態はこのようなものだ」との結論に至る。

◆「防衛大学校の「教育」と人権侵害の実態」(佐藤博文・弁護士)は、防大人権侵害裁判担当弁護士からの、報告である。防大校内には戦慄すべきイジメや嫌がらせの実態があり、こうして育った幹部が隊員を教育して、自衛隊の体質ができあがる。一般社会の常識から見れば、常軌を逸していると言わざるを得ない実情について、筆者は「社会常識からかけ離れた重大事案という認識に立って改善努力をしてきたのかまったく疑問」「『悪弊』などではなく、本音では容認している(ダブルスタンダード)と言わざるを得ない」「かれらに日本の平和と国民人権を守ることを委ねてよいのか」とまとめる。

◆そして、「現代の戦場経験から考える自衛隊の憲法明記問題」(清末愛砂・室蘭工業大学大学院准教授)。この論稿は、現代の戦場体験をリアルに語った貴重なもの。筆者は、イスラエル占領下のヨルダン川西岸地区で、「国際連帯運動」のメンバーとして、イスラエル軍と非暴力で対峙する。その苛酷な体験を通じての「人は武器を持つと変わる」という言葉には説得力がある。「対テロ」「国防のための自衛の措置」とは、イスラエルが大規模な軍事作戦を敢行する際の正当化論理だという。同じ論理が自衛隊の憲法明記の理由とされていることへの警鐘となっている。

◆最後に、自衛隊関連文献解説の二編。
まずは文献編として、「読書ノート自衛隊」(小沢隆一・東京慈恵会医科大学教授)。自衛隊を違憲とする論者が、「自衛隊の実相を知っておく最低限の作業はしなければ」と読み込んできた「読書ノート」である。自衛隊をめぐって、「基本文献」「対米従属と人民弾圧の軍隊」「自衛隊史」「3・11(災害救援)と自衛隊)」「自衛隊「日報」問題の深淵」と、五項目に分類した関連一八文献の紹介。タイムリーな文献にも触れられているところが特徴であり有益でもある。

◆「漫画に描かれた自衛隊」(澤藤大河・弁護士)。こちらは漫画編。サブカルが社会の雰囲気をよく反映している側面は軽視し得ないし、社会への影響力も看過できない。漫画でもリアルにいじめやしごきの実態が描かれ、「これがあってこそ精強な軍隊を維持できるというイデオロギーが根付いている」という。また、「最近、何のてらいもなく自衛隊を絶賛する漫画が増えている」「戦争や兵器、しごきやいじめまでエンターテイメントとして消費している現状は、読者も戦争を巡る理不尽にならされてきているのではないか」という居心地の悪さが語られている。  安倍九条改憲阻止の運動に資するものとして、本特集をお贈りする。

「法と民主主義」編集委員会 澤藤統一郎


時評●国家の実力組織は何によって正当化されるのか──立憲主義と「加憲」的改憲論の緊張をめぐって

(日民協理事・元都留文科大学教授・現講師)横田 力
 周知のように自民党は3月22日の憲法改正推進本部の会合で改憲4項目案を提示、その後25日の党大会でその基本方針を了承している。そこで示された9条改正の案は本案と二つの代案を含めともに9条①②項をそのまま残した上でいずれもそこに9条の2を加えその①項に自衛隊の存在を明記するものとなっている。そもそも自衛隊は国家行政組織法に直接規定された行政組織ではなく防衛省設置法とそれを受けた自衛隊法に基づく一組織にすぎないが何故それが直接憲法に規定されることになるのか、という問題があるが、ここではより根本的に自衛隊という実力組織の存立根拠について考えてみることにしたい。
 それについての政府の説明は「憲法は、第9条において…戦争を放棄し…戦力の保持を禁止しているが」前文において「平和のうちに生きる権利」を確認し、また13条において「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利について」の最大の尊重を定めている。従って「わが国みずからの存立を全うし国民が平和のうちに生存することを」全うするためには「必要な自衛の措置」をとりうることは当然禁じられてはいない、とするものである。これは周知のように個別的自衛権とそのための実力組織の保持を述べたものではあるが、それは今から4年前の所謂限定的な集団的自衛権行使のための正当化論としても援用され2014年7月1日の閣議決定へと至り翌年の安保法制合憲化論の論拠ともされたものである。またこのような議論は最近護憲派と目される研究者の中にも散見される(「外国による侵略で国民の生命自由が奪われるのを放置することは憲法13条に反する。従ってそのための実力の保持は認められる」等)。
 しかしそもそも国民の生命・自由・幸福追求という立憲主義の最も基本的な価値を根拠に国家の実力組織⇒軍事的力能の正当化は理論上可能なのであろうか。そのことに対する一つの応答は日本国憲法前文が示すところであり、そこでは①戦争の惨禍とは「政府」(国民を含むところの国家ではない)の行為によって引き起こされるものであり、②それを防ぐためにわれわれ国民は「平和を愛する諸国民(国家ではない)の公正と信義に信頼して(trust in)」自らの「平和と生存を保持しようと決意した」のであり、③その帰結として「われらは、全世界の国民(all people of the world)が、ひとしく恐怖と欠乏(fear and want)から免れて、平和のうちに生存する権利(right to live in peace)を有することを確認する」のであり、そしてこのことは普遍的な政治道徳である、とされるのである。
 そしてさらに幸福追求権の前提となる13条第一文の「個人としての尊重」を人間乃至個人の尊厳を意味すると解した場合、人としての良心と生命を前提とする尊厳性の毀損(侵害)はある行為によって犠牲者になる者にとっても、止むなく加害行為への加担を余儀なくされた者にも、あるいはそれを阻止できなかった者にも等しく認められるのであり(「尊厳(Wurde)」の普遍性)、そしてこのことが生起する典型的な場面が、人の殺傷が必然化(合法化)される国家による実力組織の発動としての戦闘行為(⇒戦争)の場であることは言うまでもないであろう。このような意味で国家の警察力を超えた実力組織を人間の自由、人権という基本的価値によって弁証することは少なくとも日本国憲法を前提とする限り決して成り立つものではないのである。
 因みに、よく引照されるドイツ憲法にいうところの基本権保護義務とは、ある国民または集団等が「他人の権利を侵害した場合」(基本法2条①項)、その侵害された者の自由と尊厳(同1条①項)を守るために必要性、比例性等の厳格な要件の下に国家の関与を認めるための議論であって、抽象的な国民一般を保護するための国家(政府)の権限を導出するための議論ではないことを確認しておく。
(よこた つとむ)


ひろば●「法民賞」の選考委員を担って

●いなおり
 本年度の選考委員に、広渡清吾氏(委員長)、内藤光博氏、中矢正晴氏らととも私も選任され、その選考を担うことになったので、その感想を述べさせていただく。
 今回の選考対象期間(2017年4月~2018年3月)の「法と民主主義」は、安倍政権の改憲策動、日米軍事同盟の強化、そして反人権的立法の強行を批判する論陣をはっている。とくに森友・加計問題にあらわれた権力の私物化というべき安倍政権の対応が日本の民主主義に大きな負荷となっていることを明らかにした。他方、安倍政治に変わる新しい可能性を2017年10月の衆院選の分析において探った。また、歴史的な核兵器禁止条約の成立の背景と意義を尋ね、「核なき世界」を展望している。
 各委員が、それぞれ理由を付して3点の受賞候補作を提案し、議論を積み重ねた結果、次のような結論に至った。
 「法と民主主義」賞は、「特集・核なき世界をめざして」(1月号)に授与することとした。核兵器禁止条約が国連で採択され、国際的に大きな支持をひろげつつある。条約を生み出したのは、核兵器廃絶の国際的世論であり、その中心が唯一の被爆国日本の被爆者、市民そして法律家の原水爆禁止の粘り強い運動であった。核兵器禁止条約は、21世紀の世界が核の脅威から自由になり、世界平和と人類の福祉を実現するための絶対条件であり、日本国憲法9条とともにこれからの世界と日本の平和運動のたいまつとなる。本特集は、核兵器禁止条約に至るまでの世界と日本の運動および条約の世界的意義と射程を考察し、歴史的意義を有する核兵器禁止条約を記念する内容を示したものとして貴重であり、法民賞に値する。
 「法と民主主義」特別賞は、以下の2点に決まった。
 1つは、「特集・2017年衆院選――私たちは何をなすべきか」(11月号)に授与することとした。2017年10月の衆院選は、2016年7月の参院選に続いて、安倍政権に対して市民と立憲野党が共同のたたかいに取り組んだ側面を有していた。上記特集は、このたたかいを振り返り、記録し、その意義と教訓を明らかにしようとした。重要なのは、そこにおいて、選挙がたたかわれる社会のなかの基礎条件、すなわち、市民と野党の共同、市民と政党・市民と市民の関係、選挙制度それ自体などを考察し、政治を変えるために選挙をかえるという可能性を探ったことである。このような可能性の探索が今後に持つ意義を高く評価して、本特集に法民特別賞を授与することとした。
 もう1つの特別賞は、阿部岳「異形の怪鳥 同盟を象徴――オスプレイにみる隷従の実態」(10月号)に授与することとした。阿部岳氏は、ジャーナリストとして、日米軍事同盟を象徴するオスプレイをめぐる問題を沖縄の現地から告発し、これを「米軍の横暴、日本政府の卑屈、沖縄差別、本土への波及」と総括している。本論文は、安倍政権の安保政策に対する最前線のたたかいとして沖縄の現実を具体的に分析することによって、沖縄の怒りを伝え、本土との連帯を求め大きな説得力を示し、法民特別賞に値する。以上は、選考委員会委員全員一致の結論であった。
 最後に、相磯まつ江記念・法民賞の存在意義について述べさせていただく。法民賞は、年間を通してみて、日本の民主主義運動を励まし、ともにたたかい、平和と民主主義の可能性を広げるのに貢献したと考えられる論文に賞を与えるものである。私たちが生きている時代の論文を大きな視点から捉え、位置づけ、未来に対する展望を切り開いていく上で、極めて貴重なものであることを選考委員を担当して実感した次第である。末長く、法民賞が継続、発展することを祈念する次第である。

(弁護士 加藤文也)