日本民主法律家協会

〒160-0022 東京都新宿区新宿1-14-4 AMビル2・3階
TEL:03-5367-5430 FAX:03-5367-5431
mail:info@jdla.jp

法と民主主義

▶バックナンバー一覧はこちらから

法と民主主義2018年8・9月号【531号】(目次と記事)

特集★「原発と人権」人間・コミュニティの回復と原発のない社会をめざして 第4回全国研究・市民交流集会 in ふくしま(2018.7.28~7.29)より
◆特集にあたって………編集委員会・丸山重威
◆開会挨拶………牛山 積
◆歓迎の挨拶………中井勝己

●全体会報告
◆記念講演:フクシマは何を問うているのか………高橋哲哉
◆報告:福島第一原発の現状………山川剛史

●被害者・被災地の声
◆原発推進暴走国策と東電の暴利追求に闘い抜く………早川篤雄
◆帰還困難区域のふるさと・津島に想う………佐々木 茂
◆福島県内に居住し続けた人々の被害について………伊東達也
◆営業努力がない、と賠償打ち切り「被害ある限り賠償」のウソ………斎藤朝興
◆裁判所からの御墨付き「区域外避難」………鴨下祐也
◆国連人権理事会での訴え 無用な被ばくを避けるための情報コントロール権の確立を………森松明希子

◆報告:福島原発災害7年を経て||その復興とは何か………鈴木 浩
◆報告:先行する7判決の評価と課題(損害論を中心に)………米倉 勉
◆報告:原発差止め訴訟判決の成果と課題………井戸謙一
◆報告:「福島事故から7年、私たちの訴え」について………松野信夫

●分科会報告
◆第1分科会:福島第一原発の後始末と脱原子力社会への転換………水藤周三
◆第2分科会:原発災害と政策転換………礒野弥生
◆第3分科会:原発事故賠償の課題と展望………大坂恵里
◆第4分科会:核兵器と原発………内藤雅義
◆第5分科会:原発政策の転換とメディア………林 勝彦

◆閉会挨拶………塩谷弘康
◆お知らせ………「原発と人権」第4回全国研究・市民交流集会inふくしま実行委員会


司法をめぐる動き・裁判手続等の「全面IT化」に向けた急激な動き その重大な問題点………正木みどり
司法をめぐる動き・7月/8月の動き………司法制度委員会
メディアウオッチ2018●《進む不正な情報支配》受け手の情報環境への視点を 安倍キャンペーンと沖縄ヘイト………丸山重威
あなたとランチを〈№39〉●「普通のおばさん」ってほんと………ランチメイト・禰屋町子さん×佐藤むつみ
改憲動向レポート〈№7〉憲法改正に「人生をかける」とまで発言する安倍首相………飯島滋明
時評●ジェンダー差別をなくすことはすべての差別をなくすことに通じる………杉井静子
ひろば●政策の転換を!………海部幸造


「原発と人権」人間・コミュニティの回復と原発のない社会をめざして 第4回全国研究・市民交流集会 in ふくしま(2018.7.28~7.29)より

◆特集にあたって
 原発のパラダイムは大きく変わった…

 第4回「原発と人権」全国研究・市民交流集会inふくしまを開催して確認できたことは、井戸謙一弁護士が喝破されたとおり、「原発のパラダイムは大きく変わった」ということだ。「夢のエネルギー」と大宣伝された原発も、フクシマ事故後七年半を経て、依然として政権からは「基幹電源」と位置づけられても、いくら「必要だ」と強調されて、「もう、それは無理なのだ」とみんなが納得できる状況になりつつあることは、確かではないだろうか。
 今回の集会に当たって、実行委員会は「福島事故から7年、私たちの訴え――国、東電が責任を持ち、地域と住民を守り、『原発のない社会』の実現を」と題するアピールを提案、集会で確認した。
 幅広く、自由に議論しようと、「研究集会」と銘打って始めた集会で、初めて、「被害の救済」「地域の復興」と、「原発がない社会」を確認した。これまでの研究と闘いの成果である。大切なのは、ここで示された課題と、解決への道筋をひとつ一つ実現し、実際の政治に生かしていくことである。
 今回の特集は、この集会の記録集として位置づけされている。高橋哲哉教授の基調講演ほか、この第4回集会の講演、報告をできるだけ忠実に記録した。

 集会では、いま事故原発がどうなっているかについて、東京新聞の山川剛史記者の詳細な報告が行われた。山川記者は参加者に東京新聞の紙面の複製を配布して、タンクが林立した異常な光景とともに、事故炉の燃料取りだし、廃炉がいかに難しいかを、パワーポイントの映像で紹介した。 
 続いて、地元から被害者の発言が行われた。避難していった人、避難してくる人、そして住み続ける人が一緒に住むいわきの伊東達也さんは、事故直後から、二、三年後を経て、最近の地元の状況を報告された。避難解除区域、楢原町の早川篤雄さんからは「帰還可能」と言われても実際に帰還者が増えない中で、古くからの寺の維持、生活維持の困難さが訴えられた。浪江町津島の佐々木茂さんは、故郷に帰るあてもない状況の中での国の対応のいい加減さを告発。東京に避難している鴨下祐也さんは「区域外避難者」を被害者として認めさせることから始まった闘いを報告、福島民商の斎藤朝興さんは、勝手に打ち切りを言い出し、切り捨てようとする東電の事業補償について報告。大阪から参加した森松明希子さんはジュネーブの国連人権委員会でNPO代表として発言したことを報告した。

 さらに、復興をどう考えるのか、そのあり方と現在の問題点については、福島大の鈴木浩名誉教授に問題提起をお願いした。鈴木教授は、いま進められている「惨事便乗型復興」を「人間の復興」に、「持続可能な復興」へと軌道修正していかなければならないことを強調された。
 こうした現状を踏まえたうえで、東大の高橋哲哉教授が記念講演。既に著書「犠牲のシステム 福島・沖縄」を書いた高橋教授は、これまでの経過を振り返りつつ、「人間は自分たちの生存にとって危険なものを大量に作り出し、抱え込んだ。事故の責任と将来の世代への責任を果たすには原発は廃止するしかない」と話した。
 圧巻だったのは、福島原発被害弁護団幹事長の米倉勉弁護士と、「脱原発」を求めた原発差止め訴訟についての井戸謙一弁護士の報告である。米倉弁護士は七つの原発事故被害訴訟の到達点と問題点を報告した。井戸弁護士は事故前と事故後の判決、決定について、「事故後、差し止めを認める判断と認めえない判断が拮抗してきたが、次第に認めない判断が増えている」と分析した。

 こうした全体集会の報告を受けて、二日目の分科会では、五つの分科会で議論された。いずれも、今回もまた短い報告しかできないことが残念だが、各分科会ともそれぞれの報告、討論が何本かの論文になる意義をもったものである。
 第一分科会では、事故の原因が、外部電源の喪失以外、技術的な面で特定されていないこと、安全規制がこれで大丈夫なのか、などの報告が行われ、議論されている。第二分科会では、情報公開の課題や、福島での市民運動の問題、併せて健康被害者の援護活動、復興行財政の問題が論議された。
 第三分科会では、判決をもとに損害論、賠償論が深められ、原状回復も論じられた。「核」を扱った第四分科会では、プルトニウム問題から核兵器禁止条約、平和教育など幅広い問題提起がされている。第五分科会では、メディアの課題と原発輸出や放射性廃棄物についても問題提起がされている。

 集会当時、既に猛暑続きでこれまで通ったことのないコースで襲来した台風一二号と、猛烈な雨、風が西日本を中心に災害をもたらし、集会終了後は併せて北海道胆振地震が緑の山肌を一瞬のうちに地肌が露呈した光景に変え、住宅を飲み込み、住宅街を液状化させ、全道で停電した。日本のシステムの脆弱性を見せつけたものである。もう、基本に帰って考えるときではないか。すべてを再検討して、考える時期ではないだろうか。

(「原発と人権」集会実行委員会・「法と民主主義」編集委員会 丸山重威)


時評●ジェンダー差別をなくすことはすべての差別をなくすことに通じる

弁護士・杉井静子
 このところセクシャル・ハラスメント(以下セクハラと略す)のニュースをよく見聞きします。
 テレビ局の女性記者が財務省の前事務次官からセクハラを受けたことを告発し、これを契機にメディアの女性たちの「#Me too(私も被害者)」の動きが広まりました。その中で明らかになったのは、加害者は警察・検察関係者12%、国会議員など政治関係者11%、官僚など公務員8%ということで取材先の権力関係者が3割を占めていることです。同時に上司など社内関係者も40%にのぼっています。
 これをみるとセクハラは社内においても社会的にも上位にあるものが権力をかさにきてなされるものであることが分かります。その点で被害者は女性に限りませんが男性優位の社会の中で被害者の圧倒的多数が女性であることも事実です。そしてセクハラは昔もあったけれども女性進出に伴い、表面化するものなのです。
 メディアへの女性進出は比較的に遅かったので、今ようやく女性記者たちが声をあげ始めたといえるのではないでしょうか。
 「ようやく」というのは、実は私は約30年も前の1989年に第二東京弁護士会の両性の平等に関する委員会(当時)の副委員長として全国で初めての「セクハラ110番」を実施した経験があるからです。相談の4割がセクハラにより解雇されたり、退職に追い込まれるといった女性の働く権利にかかわるものでした。
 その後、労働省(当時)に弁護士会がつくった「セクハラ防止法案大綱」をもって要請に行きましたが、担当者から「セクハラなんて実態があるかどうかわからない。それにセクハラは法律にはなじまない」と言われた時のくやしさを今でも思い出します。
 実際は多くの女性たちの運動もあって1999年には男女雇用機会均等法の改正でセクハラ防止に向けた事業主の雇用管理上の配慮義務などが盛り込まれてました。
 当時私は前記労働省の態度からしてとても信じられない反面、自分がやってきたことに確信をもったことを覚えています。しかし長年セクハラ問題にかかわってきた金子雅臣氏の、この背景には90年代初めにアメリカで起きた米国三菱自動車製造がセクハラ訴訟を起こされ、多額の賠償金を支払うとともに不買運動も起こる状況であったという「外圧」から日本政府は慌てて均等法の中にセクハラ項目を入れたとの論稿(「世界」2018年8月号「セクハラという男性問題」)を読んでそういう面もあったのかと納得しました。
 しかし改正均等法が施行されてからも約20年が経った現在の財務大臣の発言には暗澹たる思いがしました。
 性差別を禁じる日本国憲法が施行されてから71年。国連の女性差別撤廃条約を日本政府が批准してからも33年が経つのに政権中枢にいる人間がこの程度の認識なのです。だから、選択的夫婦別姓も実現しないし、日本の女性国会議員比率は10.1%で、北欧やフランスの約40%に及びもつかない、世界経済フォーラムのGGI(ジェンダーギャップ指数)は114位(2017年)という恥ずかしい現状なのです。前国会で「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律」が成立したが、あくまでも候補者のクォーター制は政党の努力に委ねるという極めて不十分なものです。
 今日では女性問題は男性問題でもあることを認識すべきでしょう。男性もパワハラに悩んでいます。そして女性の非正規雇用の割合は55.5%(平成29年)になっていますが、男性の非正規の割合も年々増加しています。非正規の雇用差別の問題は、労働者全体の問題となってきているのです。
 非正規とりわけパートの低賃金が非正規の低賃金構造の底にあります。「男は仕事、女は家庭」という固定的な性別役割分業意識のもと男は「家計の主たる働き手」、女は「家計補助労働」として女性の低賃金が正当化されているのです。それを支える税制(配偶者控除等)の他にもある「世帯単位原則」は憲法の個人の尊厳の観点から見直されるべきです。
 その一方で男性労働者は家庭生活を無視する働かされ方即ち長時間過密労働を強いられています。
 ジェンダー(LGBTを含む)差別をなくすことはすべての人の差別をなくすこと、そしてすべての人の個人の尊厳を守ることに通じると考えます。
(すぎい しずこ)


ひろば●政策の転換を!

今月の「法と民主主義」は、「第4回『原発と人権』全国研究・市民交流集会inふくしま」の報告集である。東京電力福島第一原発の事故の翌年に第1回を行った同企画も、今年、第4回目を数えた。私はこの企画の第1回から実行委員会に関わってきたが、今回は今年3月に体調を崩して2ヵ月半ほどの入院・自宅療養を余儀なくされたため、実行委員会に参加できなくなり、実行委員の皆さんにご迷惑をおかけしてしまった。どうにか本番には参加することが出来て、ほぼ一参加者の気分で、これまでの4回で初めて、全体会、分科会(第2分科会に参加した)も含めて、始めから終わりまで、じっくり中身に参加することが出来た。
とても良かった。1日目の全体会にしても、この問題の現段階全体を見渡す広い論点を、限られた時間の中であれだけの内容を学ぶことが出来る企画は、なかなかないだろうと思われる。分科会(「原発災害と政策転換」)も、健康影響を巡る政策課題(情報公開、市民自らの手で放射能測定を行う等の市民活動等)、復興行財政など、論ずる問題を絞った興味深い報告がなされ、改めて、被害者、市民と研究者達の取り組みの拡がりと深化を感じさせられて感銘を受けた。
しかし、国と東電は、2020年の東京オリンピックまでにこの問題が「解決した」形を作ろうと、街の外形を整備し、被害住民の帰還を強制し、援助を打ち切ろうとする一方、原発再稼働を強行しつつある。何よりも腹立たしいのは、未曾有の被害をもたらした本件事故原因の徹底究明、国と東電の責任の明確化を放棄し、誤魔化そうとしていることである。そしてその「復興政策」が、被害者に寄り添った被害の回復、街の復興とはほど遠いものであることだ。本当に、実情を知れば知るほど怒りが湧いてくる。
なんとか、こうした国と東電の政策を転換させたい。少しでも被害者に寄り添った被害の補償、街の復興、そして原発のない社会に、方向を切り替えられないものだろうか。そして、原発のみならず、「社会のための個人」が強調され一人ひとりの存在が軽んじられる社会、大企業の収益ばかりが重視され働く人々の賃金や労働条件が軽視される経済、軍事大国化が推し進められ軍事的圧力ばかりを強調する外交、不公正と虚偽答弁が押し通される永田町、そして戦後70年の平和を支えてきた憲法9条を何が何でも葬ろうとする政治、こうした方向をなんとしても転換させたいものだ。
その為には、国会のレベルでの立憲野党の野党共闘、さらには連合政権を展望するしかないが、聞くところによると、立憲民主と国民民主がぎくしゃくしているとか、「主体的力量の強化が先」などと言っているとか。こんな状況の政党たちに任せていては安倍一強の中でアベ政治の貫徹を許してしまう。私たちの身の回りから市民の声を更に強く上げ、世論を拡げ、立憲野党を共闘の方向へ背中を押し、市民の望む政策を作らせ、政治の転換を図らせることしかない。まさに私たちが主権者としての振る舞いを発揮するべき時なのだろう。私も、東京、大田の地元で、微力を尽くしたいと思っている。

(弁護士 海部幸造)