日本民主法律家協会

デジタル監視法案(デジタル改革関連6法案)に強く反対する法律家・法律家団体の緊急声明

2021年3月17日

デジタル監視法案に反対する法律家ネットワーク
 共謀罪対策弁護団 共同代表 海渡雄一
 秘密保護法対策弁護団 共同代表 海渡雄一・中谷雄二・南 典男
 社会文化法律センター 共同代表理事 宮里邦雄
 自由法曹団 団長 吉田健一
 青年法律家協会弁護士学者合同部会 議長 上野 格
 日本国際法律家協会 会長 大熊政一
 日本反核法律家協会 会長 大久保賢一
 日本民主法律家協会 理事長 新倉 修
 三宅 弘 元総務省行政機関等個人情報保護法制研究会委員 弁護士
 平岡秀夫 元法務大臣・元内閣官房国家戦略室室長 弁護士
 青井未帆 学習院大学教授
 池本誠司 元消費者庁参与 弁護士
 右崎正博 獨協大学名誉教授
 白藤博行 専修大学教授
 晴山一穂 専修大学名誉教授

1.はじめに

 政府は、デジタルデータの活用が不可欠であるなどとして、デジタル改革関連6法案を2月9日に閣議決定し、今国会での早急な成立を目指している。
 関連法案は、内閣総理大臣を長とする強力な総合調整機能(勧告権等)を有するデジタル庁を設置し、個人情報関係3法を一本化し、地方公共団体の個人情報保護制度も統一化した上で、デジタル庁が市民の多様な個人情報を取得して一元管理し、その利活用を図ることなどを定めるが、個人のプライバシー権(憲法13条)保護の規定を欠き、政府と警察による徹底した市民監視を可能とする、「デジタル監視法案」というべき危険な法案である。
 私たち法律家・法律家団体は、個人のプライバシー権を保障し、国家による市民監視を許さない立場から、以下に述べるとおり、デジタル改革関連6法案(以下「デジタル監視法案」という。)の成立に強く反対する。

 

2.憲法13条のプライバシー権に対する重大な脅威であること

(1) 分散管理から一元管理となることの危険性
 従来、各省庁、独立行政法人、及び地方自治体が、データを分散管理することにより、個人情報の保護を図ってきたが、デジタル監視法案は、これらの規制を取り払い、デジタル庁に、すべてのデジタル情報を集中して、マイナンバーと紐づけて一元管理することを目指している。しかし、デジタル庁に集積される個人情報は膨大な量であり、その中には、例えば、地方公共団体の保有する医療、教育、福祉、所得、税に関するデリケートな情報も大量に含まれている。ひとたび、これらが流出、漏洩、悪用された場合の被害の範囲と大きさは分散管理のときとは比較にならない。行政の外部委託化により、集約された膨大な個人情報を民間企業が取り扱う機会も増えており、外部流出等の危険性は高い。システムが統一化されることにより、外部からのサイバー攻撃を受けた際に被る被害も甚大なものとなる。デジタル監視法案は、これらのリスクの増大に見合う対策が何ら講じられていない欠陥がある。

(2) 個人の同意なく情報が利活用される危険性
 個人情報の利活用を図るためには、データ主体の権利保護が大前提であり、それが、EU 一般データ保護規則(GDPR)をはじめとする国際標準である。しかし、デジタル監視法案は、データ主体の個人の権利保護規定が致命的に欠けており、運用が始まれば個人のプライバシー権が侵害される危険が極めて高い。とりわけ問題は、デジタル庁に集められた膨大な個人情報が、権利主体の同意なく、企業や外国政府を含む第三者に提供され、目的外使用に供される危険である。整備法案では、個人情報保護法の69条として、既存の行政機関個人情報保護法8条と同様の例外規定をおくが、第三者提供が厳格に制限される保証はない。「所掌事務の遂行に必要」、「相当な理由」があるなどの理由により、個人の同意原則が骨抜きにされる怖れが極めて大きい。この怖れは、デジタル監視法案の目的が第一義的に、「我が国の国際競争力の強化」に置かれているとおり、経済界の強い要請に基づく個人情報保護規制の撤廃による国際競争力の強化に置かれていることからも裏付けられる。

 

3.政府・警察による監視国家の推進

 デジタル監視法案のもとでは、各省庁と地方自治体の情報システムが、すべて共通仕様化され、デジタル庁に一元管理される。さらに、マイナンバーによって、健康情報、税金情報、金融情報、運転免許情報、前科前歴情報などが、紐づけされて一覧性の高い形での利用できるようになるのである。これは、市民のセンシティブ情報を含むあらゆる情報を政府が、「合法的に」一望監視できる国家、すなわち監視国家の体制整備を意味する。とりわけ内閣総理大臣を長とするデジタル庁は、内閣情報調査室と密接な関係を持ち、そうなれば、デジタル庁が集約した情報は、官邸・内閣情報調査室を介して警察庁・各都道府県警察と共有されることになる。個人の私生活が丸ごと常時、政府と一体となった警察によってデジタル監視されるような社会は、民主主義社会とは言えない。

 

4.地方自治の本旨に反すること

 デジタル監視法案は、これまでの分権的な個人情報保護システムの在り方を根本から転換し、国による統一的な規制を行うとするものである。このような制度は、各公共団体において、住民との合意のもとで構築してきた独自の個人情報保護の在り方を破壊し、公共団体による先進的な個人情報保護制度の構築を後退させるものになりかねない。自治体において収集した個人情報をどのように管理するかは、自治事務の一環であり、国がこれを一方的に支配・統合することは、地方自治の本旨(憲法92条)に反するというべきである。

 

5.結論

 デジタル監視法案は、上記以外にも、そもそも誰のためのデジタル化推進かという立法事実の議論をはじめ、転職時における使用者間での労働者の特定個人情報の提供を可能とする、国家資格をマイナンバーに紐づけて管理するなど、極めて問題が多い法案である。慎重にも慎重な審議が必要である。デジタル監視法案に反対する法律家ネットワークは、本年2月25日に法案の修正撤回を求める意見書を発表しているが、特に、個人情報保護の徹底とプライバシー権侵害の危険の払しょく及び警察権力の規制をはじめ監視国家化防止策が徹底されない限り、デジタル監視法案は、廃案にすべきである。

 

以上