2021年5月10日
改憲問題対策法律家6団体連絡会
社会文化法律センター 共同代表理事 宮里 邦雄
自由法曹団 団長 吉田 健一
青年法律家協会弁護士学者合同部会 議長 上野 格
日本国際法律家協会 会長 大熊 政一
日本反核法律家協会 会長 大久保賢一
日本民主法律家協会 理事長 新倉 修
本年5月6日、衆議院憲法審査会において、日本国憲法の改正手続きに関する法律の一部を改正する法律案」(以下「7項目改正案」という。)が、立憲民主党が提出した改正法施行後3年後を目途に、広告規制、資金規制、インターネット規制などの検討と措置を講ずるという附則をつける修正案(以下「修正案」という。)とともに、賛成多数で可決された(なお、共産党は、原案修正案のいずれも反対、日本維新の会は修正案に反対)。これにより、修正を施された7項目改正案(以下「7項目修正改正案」という。)は、衆議院本会議に送られることとなった。
改憲問題対策法律家6団体連絡会は、これまで7項目改正案に対して重大な問題点があると指摘して採決に反対してきたが、7項目修正改正案についても、問題は何ら解決されていない欠陥法案のままである。私たちは、明文改憲への途を開くだけの7項目修正改正案の衆議院憲法審査会での採決に強く抗議し、7項目修正改正案の廃案を求めるものである。
7項目改正案とは、2016年に累次にわたり改正された公職選挙法(名簿の閲覧、在外名簿の登録、共通投票所、期日前投票、洋上投票、繰延投票、投票所への同伴)の7項目にそろえて改憲手続法を改正するという法案である。
7項目修正改正案の問題点を要約するならば、第1に、憲法改正国民投票(憲法96条)は、国民の憲法改正権の具体的行使であり、最高法規としての憲法の正当性を確保する重要な手段であることから、公選法「並び」でよいとする乱暴な議論は憲法上許されないこと。第2に、7項目の中には、国民投票環境の後退を招く項目があり、さらに、このままでは国民投票ができない国民が出るなど、違憲の疑いのある欠陥法であること。第3に、そもそも改憲手続法は、2007年5月、第1次安倍政権において強行採決により成立した時から数多くの問題が未解決のまま10数年にわたり先送りとされてきた。とりわけ運動資金の規制がなく、CM規制が不十分で、最低投票率の定めがないなど、国民投票の結果の公正を担保しないという根本的致命的な問題点がある。7項目修正改正案は、これらの「国民投票を金で買う」などの根本的問題が何ひとつ解決されていない欠陥法案である(本年4月20日付改憲問題対策法律家6団体連絡会緊急声明参照)。
国民の投票機会が十分に保障されず、結果の公正が担保されていない欠陥修正改正法案を急ぎ成立させる必要性も正当性も存在しないことは明らかである。
2017年5月に、当時の安倍首相が2020年までに改憲を成し遂げると宣言し、2018年3月に自民党は4項目の改憲案(素案)を取りまとめ、同年6月に、公選法並びの7項目改正案が提出された。もともと7項目改正案は、安倍自民党改憲を進める便法として提出されたものである。そのことは、本年5月3日、菅首相が、憲法9条への自衛隊明記や緊急事態条項の創設などを盛り込んだ自民党の改憲4項目をたたき台にして、「それを基に議論を進めてもらう」と述べるとともに、7項目改正案について「憲法改正議論の最初の一歩として成立を目指さなければならない」としていることからも明らかである。
国民は、今、憲法改正議論など望んでいない。政府と国会が、何をおいても全力で取り組むべきことは、新型コロナ対策であり、市民の命と生活を守る施策である。コロナ禍に乗じて自民党の改憲4項目を提示することなど論外である。憲法審査会を仮に開くとしても、そこで議論されるべきは、安倍・菅政権によって蹂躙されてきた憲法状況の調査と審査であり、改憲手続法の抜本的改正の議論のはずだ。立憲主義も民主主義も理解せず、新型コロナ感染症対策もままならない現政府・与党に、コロナを口実にした改憲を言う資格はない。
7項目修正改正案は、ただちに廃案とされるべきものであるが、5月11日の衆議院本会議で採決が強行されれば、審議の場は参議院に移ることになる。
日本国憲法で二院制が採用された意義は、「数の政治」に対する「理の政治」を実現し、審議や立法権限の行使を慎重かつ適切なものにすることにある。前述のとおり、7項目修正改正案には、憲法改正国民投票の機会を十分に保障していない問題や、CM規制、最低投票率、ネット規制、運動資金の規制の問題など、主権者意思の適切かつ公平な表明を阻害しかねない根本的欠陥があるにも関わらず、衆議院での審議は極めて不十分であった。参議院は、いまこそ、「良識の府」としての役割を自覚し、これらの問題点につき、徹底的な審議を尽くすべきである。
14年前の2007年5月11日、第一次安倍政権のもとで強行された改憲手続法に対して、有料広告の規制、最低投票率、公務員と教育者の地位利用による国民投票運動などについて検討や措置を求める18項目の附帯決議を突きつけたのは、ほかならぬ参議院の憲法調査特別委員会であった。改正案の送付を受けた参議院は、自らが附帯決議で突きつけた問題を含む改憲手続法と本改正案をめぐるすべての問題について、慎重かつ全面的な審議を行わなければならない。
また、制定の際には参考人陳述や公聴会で80名を超える専門家や市民の意見を聴取し、2014年の改正の際にも参考人陳述で16名の専門家の意見を聴取しているにもかかわらず、衆議院は本改正案の審議に際して意見聴取をまったく行っていない。専門家や市民の意見を幅広く聴取し、審議に反映させることは参議院の責務と言わねばならない。
良識の府である参議院には、徹底した審議によって問題の解明と解決にあたることが求められているのであり、「通常国会で成立させる」などという国民無視・国会無視の確認に縛られたアリバイ的な「審議」に堕することは、憲法と国民に対する冒とくであるばかりか、参議院の存在意味を失わせる自殺行為である。
参議院はかかる愚挙を断じて行ってはならない。
以上