2022年3月11日
改憲問題対策法律家6団体連絡会
社会文化法律センター 共同代表理事 海渡 雄一
自由法曹団 団長 吉田 健一
青年法律家協会弁護士学者合同部会 議長 上野 格
日本国際法律家協会 会長 大熊 政一
日本反核法律家協会 会長 大久保賢一
日本民主法律家協会 理事長 新倉 修
ロシア連邦(以下、「ロシア」という。)は、2022年2月24日、ウクライナに対し軍事侵攻を開始した。2週間以上が経過した現在においても、プーチン大統領はウクライナが抵抗をやめるまで戦争を継続すると宣言し、病院や民間人アパートなどの非軍事施設に対しても攻撃の手を緩めず、核兵器による威嚇、原子力発電所に対する攻撃及び占拠までも行っている。国連(OHCHR及びUNHCR)の発表によれば、ウクライナの民間人犠牲者は474人(3月9日時点。実際の死者数はさらに多い可能性が示されている。)、国外避難民も150万人を超える(3月6日時点)等、その被害は甚大である。
このようなロシアの暴挙は、ウクライナの主権を侵害し、ウクライナに暮らす人々の命を無惨に奪い、生活を破壊し、取り返しのつかない深い傷を与えるものである。かかる軍事侵攻は、「言語に絶する悲哀を人類に与えた戦争の惨害から将来の世代を救い、基本的人権と人間の尊厳及び価値と男女及び大小各国の同権とに関する信念をあらためて確認」するとした国連憲章前文、国際紛争の平和的解決を原則とする国連憲章2条3項及び第6章、武力による威嚇又は武力の行使を原則禁止する国連憲章2条4項に明確に違反する行為であって、国際刑事裁判所設立条約(ローマ規程)に禁止する戦争犯罪や侵略犯罪に当たる。いかなる理由があろうとも断じて許容することはできない。ロシアは、直ちに軍事行動を停止し、撤退すべきである。
ロシアは、ウクライナがロシアにとって脅威であること、また、ロシアが独立を認めたウクライナ領土内の親ロシアのドネツク人民共和国及びルガンスク人民共和国における平和維持を根拠としているが、ウクライナがロシアに侵攻した事実はないから個別的自衛権は行使し得ず、また、ロシアしか独立を認めていない両共和国についての集団的自衛権も成立し得ないから、国連憲章51条(自衛権行使規定)により正当化することは不可能である。
かかるロシアの軍事侵攻に対し、国連総会は同年3月2日、ロシアに対して軍事行動の即時停止を求める決議案を141カ国の圧倒的多数で採択した。また、世界各国で大規模な反戦デモが実施され、様々な団体が相次いでロシアに対する抗議の声を上げるなど、ロシアに対する国際的な批判も日に日に高まっている。
他方、ロシアによるウクライナ侵攻を契機に、日本国内において、核共有や軍備増強が必要であるとの言説も見られる。しかし、軍備増強や(仮想)敵国に向けてミサイルを配備するなどの軍事行動は、周辺国に対しての脅威となって際限のない軍拡競争を招き、地域の緊張を高めて戦争にもつながりかねない。ましてや、唯一の戦争被爆国であり、被爆者の方々が経験してきた悲惨な核兵器被害は二度と繰り返してはらないという誓いから、非核三原則を国是としてきたわが国において、核共有を認めることは議論の余地なく断じて許されない。さらに、核共有論は核不拡散条約(NPT)にも違反し国際法秩序を破壊するものである。核兵器による対抗を示すことは、核兵器の使用を誘発し、壊滅的な非人道的結末を招いてしまうのである。
日本国憲法は、「恒久の平和を念願し」、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意」し、「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」(憲法前文第2項)とした上で、第9条において、戦争と武力による威嚇又は武力の行使を永久に放棄し、戦力の不保持、交戦権の否認を宣言している。憲法の平和主義こそが、繰り返される国家による戦争の惨禍を防ぐ道筋を示すものであって、核共有や軍事増強の議論は、この憲法の平和主義に真っ向から反するものである。
我々改憲問題対策法律家6団体連絡会は、日本国憲法および国連憲章の精神に則り、ロシアによるウクライナ侵攻に対して強く抗議するとともに、ウクライナの人々の平和的生存権を侵害する侵略行為を直ちに停止することを求める。
以上