2023年1月24日
日本民主法律家協会
内閣府は2022年12月6日に日本学術会議の根幹をゆるがせにする「日本学術会議の在り方についての方針」(以下、「方針」という)をまとめ、本年中に立法化をもくろんでいる。
「方針」は、政府や軍需産業を含む経済界などと学術会議が「問題意識や時間軸を共有する」ことを要求し、日本学術会議の会員選出過程に第三者委員会の関与を認め、「内閣総理大臣による任命が適正かつ円滑に行われるよう必要な措置を講じる」としている。これは、日本学術会議の運営全般について、世界的な標準とされている科学者の「代表機関」(日本学術会議法第2条)としての「ナショナル・アカデミー」の性格を奪うものであり、日本学術会議がこれまで築いてきた「科学が文化国家の基礎であるという確信に立つて、科学者の総意の下に、わが国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献し、世界の学界と提携して学術の進歩に寄与することを使命」(同法前文)とした活動を否定し、これを著しく歪めるものである。
ここに、「方針」が文化国家における「ナショナル・アカデミー」という普遍的な性格をもった日本学術会議の基本的な在り方に背馳するものであることが示されている。憲法23条は学問の自由を保障しているが、その核心は政治権力が学問の内容に干渉することを禁じ、学術研究者団体や大学などの自律性を保障することにある。「方針」は、憲法23条に違反する。
「方針」は、2022年12月16日の敵基地攻撃能力保有を認めるなど日本の安全保障政策を非軍事的紛争解決から積極的な武力行使の容認に大転換する閣議決定に伴い、この政策転換の障碍となる学術会議の解体・変質を狙うものである。これにより、「平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ」(憲法前文)という理念から、学術研究そのものを逸脱させることにつながる。
さらに政府の軍事力による対峙を優先する政策転換を承けて、「方針」は、学術研究に国境の「壁」を設け、学術研究の目的そのものも「仮想敵国」を凌駕する軍事力の増強を国策として推進する方向に傾斜させることになる。これによって基礎研究や人文社会科学系の「批判的な研究」が抑圧されるおそれすらある。これは、まさに戦前の学術研究が受けた「軍国主義の桎梏」であり、学術研究全体を憲法の基本的価値に背馳する政策に従属させることをめざすものである。
2020年10月、菅義偉首相は、憲法の恣意的な解釈に基づき法律の規定に反して、日本学術会議が推薦した会員候補のうち6名について、理由も明かすことなく、任命を拒否した。岸田文雄首相は、その非を改めることなく、日本学術会議の総意に基づく是正を求める要請にも提案にも耳を傾けることなく、この度の「方針」を是認し、任命拒否の合法化を図ろうとしている。
「方針」のように学術会議会員の選出にあたって第三者の加わった機関の介入を認めることは、学術研究に従事する者の専門性を尊重して、同僚による選出制度(co-optation)によって制度的に保障される独立性・自主性を著しく損なうものであり、またこのような介入によってもくろまれることが想定される「国益」や内閣の「政策」を忖度した人選は、自由であるべき学術研究とその発展・進歩を阻害するものであって、日本学術会議そのものの破壊を企むものである。私たちは、日本学術会議の独立性・自主性・普遍性を奪う内閣府の「方針」の撤回を求めるとともに、日本学術会議が昨年12月21日に公表した声明「内閣府『日本学術会議の在り方についての方針』(令和4年12月6日)について再考を求めます」の立場を強く支持するものである。
以上