日本民主法律家協会

憲法に違反する軍拡2法案に強く反対する法律家団体声明

2023年6月5日

改憲問題対策法律家6団体連絡会
社会文化法律センター 共同代表理事 海渡 雄一
自由法曹団 団長 岩田研二郎
青年法律家協会弁護士学者合同部会 議長 笹山 尚人
日本国際法律家協会 会長 大熊 政一
日本反核法律家協会 会長 大久保賢一
日本民主法律家協会 理事長 新倉  修

 

1 はじめに

 現在、国会では、「防衛省が調達する装備品等の開発及び生産のための基盤の強化に関する法律案」(以下「軍事産業支援法案」)と「我が国の防衛力の抜本的な強化等のために必要な財源の確保に関する特別措置法案」(以下「軍拡財源法案」)のいずれもが衆議院で可決されたうえ、参議院での審議が進められている。
 これらは、昨年12月16日に閣議決定された安保関連3文書を具体化し、軍備の拡大強化を進めるための軍拡2法案と言えるものである。
 そもそも昨年12月の安保関連3文書の閣議決定は、相手国の領域を攻撃できる能力(以下「敵地攻撃能力」)を保有し、防衛費(軍事費)をGDP比で2%とするなど、憲法9条と平和主義に違反する違憲の閣議決定である。ところが、今国会では、安保関連3文書についての十分な審議がなされないまま、これを具体化するために防衛費を前年比1.3倍の6兆7880億円へと大幅増額する予算を成立させたのに続いて、政府、与党は、憲法違反のこの2法案を成立させようとしている。憲法9条をないがしろにし、立憲主義に反する動きであり、強く抗議する。

 

2 軍拡財源法案は、憲法の平和主義・財政民主主義・福祉国家の理念に違反する

 軍拡財源法案は、安保関連3文書に基づき、5年間で43兆円もの軍事費の財源を確保する特別措置を定めるもので、上記のとおり、そもそも憲法9条と平和主義の理念に真っ向から違反する。
 また、軍事費財源を確保するために、本来一般会計に組入れることができない財政投融資の一定額(今年度2000億円)や外国為替資金の一定額(今年度1兆2004億円余り)をそれぞれの特別会計から一般会計に繰り入れるとともに、独立行政法人国立病院機構及び独立行政法人地域医療機能推進機構の積立金の一部(今年度744億円)を国庫に納付させ、それらを防衛力強化資金としてプールし、軍備強化拡大のため財源にすることを定める。しかも、防衛力強化資金の受け払いは、歳出歳入外で国会の議決を不要とする。
 本法案は、毎年の予算を国会審議で決定する単年度主義を逸脱し、財政国会中心主義・財政民主主義(憲法83条)に反し、軍事のための予算を聖域化するものである。また、特別の目的のために独立の収支を確保するために例外的に設けられた特別会計等の規制をないがしろにし、国民の権利のために確保されるべき独立法人の財政基盤を切り崩すことになりかねない。特に看過できないのは、医療や年金に回すべき医療関係機構の積立金をも財源に流用するとしており、軍拡や戦争準備のために、医療や生活という国民の福祉を犠牲することが公然と規定されている点である。それだけでなく今後、歳出改革と称して更なる福祉予算・教育予算等の削減により軍事費に充てることも法案は予定している。

 

3 軍事産業を税金で支援し、武器輸出も解禁し、市民を監視する軍事産業支援法案

 軍事産業支援法案は、自衛隊の任務に不可欠な装備品等を製造する企業に対し、兵器製造の基盤強化に関して、①原材料・部品などの供給網(サプライチェーン)の強靭化、②製造工程の効率化のための設備導入、③サイバー・セキュリティーの強化、④事業承継等を実施する経費を国が援助し、「武器輸出」の円滑化に関して、装備移転を行う企業が防衛大臣の求めに応じて、装備品の仕様・性能等を変更する場合、その費用に対する助成金を交付し、また製造・移転に必要な資金を貸付け、さらに事業の継続が難しくなった場合には国が製造施設を国有化し、他企業への管理・運営委託を可能にする「軍事産業丸がかえ支援法案」に他ならない。
 安保関連3文書では、防衛生産・技術基盤を防衛力そのものとして位置づけ、「新たな戦い方に必要な力強く持続可能な防衛産業の構築」とともに、官民一体となって防衛装備移転、すなわち武器輸出を進めることを明らかにしているが、これらを具体化する法案である。
 加えて、この法案には、国が提供した装備品等の秘密を漏洩した行為に対する刑事罰(1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)が盛り込まれており、契約企業の従業員ら関係者も処罰の対象とされる。軍事や平和にかかわる情報を国家権力が刑罰をもって統制・管理するものであって、軍需産業関係者のみならず一般市民を監視し、自由を抑圧するきわめて危険な法案である。

 

4 憲法を破壊し世界の平和を破壊しかねない軍拡2法案の成立に断固反対する

 私たちは、安保関連3文書について、憲法の平和主義、憲法9条に反し、近隣諸国との緊張を高め、戦争のリスクを増大させることを指摘し、閣議決定の撤回を主張してきた。今国会で成立がもくろまれている軍備拡大強化のための2法案は、この安保関連3文書を具体化するものであって、国民の自由と人権と福祉を犠牲にして軍事の論理を優先することを明記し、国内の軍需産業を支援して兵器生産を増強して武器を海外に輸出し世界に軍事的緊張と戦争の惨禍の危険を拡大する法案である。憲法の平和主義をいっそうないがしろにし、立憲主義を踏みにじる軍拡2法案の廃案を強く求める。
 2014年7月の第2次安倍政権による集団的自衛権の一部容認の憲法解釈変更の閣議決定から、昨年12月の敵地攻撃能力保有等の安保関連3文書閣議決定に至る一連の経過が示す通り、この国の政府は、憲法の平和主義を捨て、日本をアメリカとともに戦争する軍事大国に変えようとしている。ロシアのウクライナ侵攻や相次ぐ朝鮮民主主義人民共和国のミサイル発射実験などに乗じて、危機を煽り、憲法9条を変えて日本を戦争する国に仕立て上げようとする動きに対して、私たち法律家は、強く警鐘を鳴らし続け、断固反対していく決意であることを改めて表明するものである。

 

以上