2024年5月20日
改憲問題対策法律家6団体連絡会
社会文化法律センター 共同代表理事 海渡 雄一
自由法曹団 団長 岩田研二郎
青年法律家協会弁護士学者合同部会 議長 笹山 尚人
日本国際法律家協会 会長 大熊 政一
日本反核法律家協会 会長 大久保賢一
日本民主法律家協会 理事長 新倉 修
2024年5月10日、参議院が「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案」を本会議で採択して可決し、同法が成立した。
私たち改憲問題対策法律家体連絡会は、すでに、同法案が国民の自由と権利を侵害して国家による国民監視を強化するものであるとともに、憲法の平和主義に反し軍需産業の育成につながるなどの重大な問題点を持つことを指摘して、廃案を求める声明を公表した。
まず、同法は、「特定秘密保護法」においては対象となっていなかった「重要経済安保情報」について、5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金等の刑罰をもって秘密保護するものであるが、重要物資や基本インフラ、最先端技術など秘密指定される「重要経済安保情報」の範囲が法文上広範かつ不明確で、すべて運用基準や政令に委ねられる点で、罪刑法定主義に違反し、濫用の危険が極めて高い。
また、国会審議においては特定秘密保護法とのシームレスな運用が言われ、政府は、特定秘密保護法の改正手続きではなく、その運用基準の改訂により、経済安保情報についても特定秘密の指定を行う予定とされているが、これは罪刑法定主義から許されない。
しかも、今国会で同時に審議され成立した経済安保法「改正」では基幹インフラに一般港湾運送事業が追加され、同改正に関して衆参両院では医療分野や地方公共団体の業務を基幹インフラの対象に拡大することを検討する付帯決議がされるなど、国民の知る権利等に対する不当な侵害がいっそう危惧されるものとなっている。
また同法により、適性評価の対象が民間労働者や研究者など大幅に拡大されるものであるが、把握された情報は政府が一括して管理する。その際実施される身辺調査は勤務先や上司・同僚、医療機関・金融機関、さらには警察や公安調査庁まで及ぶうえ、継続的に監視されるおそれや、適性評価を受けなければ職場の仕事や研究から外されものが言えなくなるとの危惧も国会審議で指摘された。市民のプライバシー権を侵害するとともに、思想・信条の自由、学術研究の自由、労働運動・市民活動の自由が害される危険性も浮き彫りとなった。ところが、これら法案のかかえる重大な問題については運用基準によるなどと先送りし、本来国会審議で解決するべき責任は何ら果たされていない。
さらに、同法は、日米同盟のもとで、日本の軍需産業を強化し、武器輸出の拡大をいっそう促進する動きの一環として、安全保障の確保に資する活動を行う事業者への重要経済情報の提供、セキュリティクリアランス制度等を規定し、軍需産業の支援強化を進めるものである。法案の国会審議において、岸田首相は、「国際的な共同開発などを進める動きが一層円滑に推進されることが期待される」と情報の活用に積極的な姿勢を示している(4月5日衆院内閣委)。4月10日の日米首脳会談共同声明でも、日米で共同してミサイルの開発・生産を促進することやAUKUSとの先進軍事技術協力を行うことが確認されている。同法は、それらに資する研究開発促進、軍需産業の育成を図るための環境整備につながるものであって、憲法の平和主義に反することは、いっそう明白となっている。
同法については、本年3月20日に衆議院で審理が開始されて以降、審議の過程で法案の重大な問題点がいっそう明確となったにもかかわらず衆議院を簡単に通過し、参議院においても十分な審議がされないまま成立にいたったものであり、主権者たる国民が正当に選挙された国会における代表者を通じて行動するという議会制民主主義が形骸化されていると言わざるを得ない。
改憲問題対策法律家6団体連絡会は、このように幾重にも憲法上重大な問題を含む、同法の成立に強く抗議するものである。
以上