日本民主法律家協会

日本民主法律家協会第63回定時総会アピール
市民の大きな連帯によって悪政を続ける自公政権に終止符を!

 

 日本民主法律家協会の活動に参加する私たちは、第63回定時総会での報告と討論を通じて、次のように呼びかける。

 

1 憲法の理念に基づく政治を
(1)明文改憲への危険な動き
  本年8月7日、自民党は、憲法改正実現本部はワーキングチームによる論点整理を受けて具体的な改憲案について討議し、緊急事態条項の創設に加え、自衛隊の憲法明記について早急に条文化に取り組むべき課題として掲げ、岸田首相自身も改憲のための論点整理について8月末をめざして議論を加速させたいと述べた。
 こうした動きは、決して、党内での個人的な権力闘争のための煽り発言と見るべきではなく、2022年末の安全保障三文書改定以降進められている敵基地攻撃能力の保有、米軍と自衛隊の指揮統制上の一体化などの軍事国家づくりの諸政策が、憲法9条・前文の平和主義と相容れなくなったがゆえのいわば必然的な発言であると見るべきである。この発言を機に、自民党内が改憲に向けて結束し、9月の自民党総裁選が改憲を競い合うアピールの場とされかねず、今後、危険な改憲への動きに対して最大限の注意を払う必要がある。
(2)改憲ではなく憲法の理念の実現を
 上記の改憲の動きに対峙するため、私たちは憲法を暮らしに生かす熟議民主主義をさらに発展させ、政権交代を実現していかなければならない。この点、本年7月7日に行われた東京都知事選において短期的にSNSを活用した大量宣伝などの選挙手法が一定の効果をあげた点や、業界団体などの組織力と結びついた現職が不透明な投票の呼びかけを駆使して再選された点について検討を深める必要がある。一方で、金権腐敗の構造的欠陥をかかえる与党に対する国民の怒りにより、都議補欠選挙では自民党候補の惨敗をもたらした点も見据える必要がある。
 私たちは改憲ではなく、憲法の理念の実現を求めていく。30年以上にわたって実質賃金が低下している経済構造を改革し、研究や教育、育児、介護に対する公的投資を増し、ケア労働の拡充とともに安心のできる医療制度を整備するよう政府に求めていかなければならない。そして、防衛費だけが異常に増加する日米安保条約「体制」の矛盾を解消し、憲法に掲げた「全世界の国民が平和のうちに生きる権利」を確保し、正義を基調とする国際社会において名誉ある地位を占めたいと願った78年前の誓約を再び確認しなければならない。

 

2 「裏金」づくりと手が切れない政治組織を温存し、個人の尊重と平和主義を掲げる憲法に逆走する政治を許せるか
(1)金権腐敗の極み
 与党自民党が「裏金」づくりに依存し、民主主義的規制をかいくぐる「穴」をふさがず、政治資金の収支を隠す「限りなく不透明」な政治組織であることは、ますますあきらかになっている(上脇博之『検証 政治とカネ』岩波新書・2024年)。社会全体を覆うさまざまな格差が放置され、「金権政治」という腐敗構造が温存され、基本情報を共有しつつ熟議をこらして民主的な決定を実現する道がともすれば閉ざされている。
(2)立憲主義・民主主義に反する
 岸田首相は、任期中に憲法改正の道筋を作ると公言し、憲法の尊重擁護の義務(第99条)をないがしろにして、個人の尊重を中心とする憲法の本旨(第13条)を踏みにじっている。立憲主義によるならば、重要案件について十分な審議時間を確保し、パブリックコメントを丁寧に募り、その場限りの「車座での対話」ではなく、国民の生活を守る真摯な姿勢が求められる。ところが、国民にとって重要な案件が国会閉会中に閣議決定され、国会開催中においても拙速な議事日程で多数派の圧力をもってこれを承認するという状況がますます顕著になっている。一昨年末の安保三文書(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画)の改訂、原子力発電の再稼働や稼働期間の根拠の不確かな延長を含むGX(グリーン・トランスフォーメーション)政策、中央政府の指示権で地方自治を圧殺する法改正など、あげればきりがない。また、福島第一原発事故に関連する「汚染水」の海洋放出でも、科学的根拠に基づく検証や漁業者などの関係者に対する「丁寧な説明」が欠如している。さらに、岸田政権は、菅政権の行った違憲・違法な日本学術会議推薦の会員候補者任命拒否問題を放置し、アカデミック・フリーダムを保障し十分な予算の裏付けを伴う学術体制の拡充を追求すべきであるのに、これを怠り、日本学術会議の独立性を脅かす組織改編・人事制度の導入に固執している。こうした動きは立憲主義・民主主義に反するものと言わねばならない。
(3)平和主義に反する
 岸田政権は、憲法9条をはじめとする明文改憲を追求する一方で、「台湾有事」や「北朝鮮のミサイル発射」、ロシアのウクライナ侵略を口実として、アメリカの「拡大抑止」政策に加担し、大幅な軍備拡大と敵基地攻撃能力(反撃能力)の強化など、「専守防衛」政策を踏み外した実質改憲を推し進めている。とくに、米国製兵器の「爆買い」のみならず、アメリカの軍事支援による兵器の「供給不足」を補充する「国産」「共同開発」にまで矛盾を広げている。さらに、アメリカの強い要請に基づく軍事費のGDP2%(NATO水準)規模への拡大は、日本の財政を破綻させかねない。さらに、沖縄県民の総意にも反して、軟弱地盤が明らかになった辺野古での米軍基地の建設を強行しつつ、南西諸島防衛を口実として、住民の意思や意向を無視して、石垣島や宮古島及びその周辺地域では軍事施設を増強ないし新設し、米軍(さらには韓国、フィリピン、オーストラリア、イギリス、フランス、インドなどの軍隊)と自衛隊 さらには海上保安庁との共同演習を繰り返している。
 こうした軍備拡大と米軍との一体化は、東アジアにおける緊張を高め、日本の国是であるはずの平和外交の道を閉ざす足枷となっている。くわえて、2023年5月のG7広島サミットでの「核兵器のない世界の実現に向けて取り組む」との首脳宣言にもかかわらず、岸田首相は、核兵器禁止条約への言及すらしないばかりか、あえて「核抑止」論に立つことを宣言するなど、被爆者をはじめとする核兵器廃絶を願う市民の思いを愚弄している。
(4)人権擁護義務に反する
 さらに、岸田政権は、人間の尊厳に根差す人権擁護の観点からも重大な過ちを犯している。「異次元の少子化対策」も、ジェンダー平等を目指す施策も、LGBTQS差別解消政策も、物価抑制策も、むしろ逆効果との疑いは拭えない。入管法の「改正」は、国連機関が懸念表明しているとおり、難民の受け入れや技能を有する移住労働者の定住を損なう重大な欠陥がある。DX(デジタル・トランスフォメーション)に関連するマイナンバーへの国民情報の一元化は、いたずらに混乱を招き、個人情報の保護に欠けるばかりか、従来型「健康保険証」の廃止に紐づけられて、その管理システムはとりわけ高齢者の命と健康を脅かすものとなっている。
 また、国連人権理事会の普遍的定期的審査や、国際人権条約の履行審査に関わる諸委員会による日本政府報告に対する最終所見に示された勧告にもかかわらず、政府から独立した人権機関の設置や国際人権機関への個人通報制度の整備が妨げられている。とりわけ袴田事件をはじめ、冤罪の救済と防止のための再審法の改正は、国際人権(自由権)規約委員会の総括所見で勧告がなされ、焦眉の急であるのに、まだ着手されていない。さらには死刑制度が重大な人権侵害であることを認識すべきであるにもかかわらず、死刑執行停止や死刑廃止条約の批准などの検討も怠っている。
(5)司法にも問題がある
 裁判所において、国際人権法が裁判規範として有効に活用されていないという構造的な問題が相変わらずある。また、辺野古の軟弱基盤対策について沖縄県知事の不許可決定に対して、代執行制度をいわば流用して、強権的な基地建設を推進する政府の決定を認容するなど、司法の公正な運用に疑問が絶えない。
 さらに、岡口基一判事に対する最高裁による戒告処分や国会による弾劾裁判には裁判官の市民的自由への軽視がみられ、逆に最高裁判所裁判官の巨大ローファームとの癒着問題の背景には、公正な裁判制度の実現のためには座視しえない「闇の構造」があることがうかがわれる。また、来るべき総選挙に際して実施される最高裁判所裁判官(長官を含む)の国民審査に際しては、公正な最高裁判所裁判官の任用制度について国民世論の喚起を呼び掛けたい。

 

3 市民と法律家の闘い
 こうした、立憲主義・民主主義・平和主義・人権擁護を掘り崩す政権の「悪政」について、私たちは市民と協力し、また立憲野党と連携して、厳しくこれと対峙し、正していく必要がある。私たちは、明文改憲・実質改憲と対決する場面において、改憲問題対策法律家6団体連絡会(社会文化法律センター、自由法曹団、青年法律家協会弁護士学者合同部会、日本国際法律家協会、日本反核法律家協会、日本民主法律家協会)に参加し、およそ10年にわたって共同の取組みを継続してきた。この活動は、明文改憲やそのほかの悪法阻止において顕著な成果を上げてきただけでなく、明るい未来を切り開く有力な活動としてますます重要な役割を果たすようになっている。

 

4 法律家は、立ち上がろう!
 私たちは、志を持つ多くの法律家、とりわけ若い法律家がよくその職責を自覚し、創造的な活動に取り組んでいることに強い共感を覚える。裁判所や検察庁、刑事施設においても、裁判官や検察官だけではなく、司法公務員が人権擁護の役割と立憲主義・民主主義の理念に照らして真剣に職務に従事していることに心から敬意を表したい。ところが残念ながら、こうした人たちや市民が幅広く連帯して力を発揮している状況はまだ生まれていない。
 昨年の総会では、私たちは、スタジオジブリの映画「君たちはどう生きるか」に触発され、「私たちはどう生きるか」と問題提起した。今年も私たちは、あらためて「どう生きるか」について考え、自らの権利とともに日本に居住するすべての人の権利を守るために行動していく。そして、若者をはじめとする皆さんにも、私たちとともに「どう生きるか」を考え、連帯するようアピールする。

 

2024年8月10日
第63回日本民主法律家協会定時総会参加者一同