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2007年02月01日の日記

文化人緊急アピール

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1・30東京地裁判決をうけての緊急アピール
祖国よ 中国「残留孤児」の苦難の人生に謝罪し,
人間回復のための政治決断を

 2007年1月30日,東京地方裁判所は,中国「残留孤児」たちが,帰国の著しい遅れと帰国後の自立支援がきわめて不十分であったことの国の責任を追及した裁判において,国には中国「残留孤児」を早期に帰国させる義務も,帰国後に自立を支援する義務もまったくなかったとする,驚くべき不当な判決を言い渡しました。

 中国「残留孤児」が,「満州国」の建国,開拓団の送出,ソ連参戦を前にした関東軍の密かな撤退,終戦時の民間人置き去りなどの一連の国策によって生み出されたことは,動かすことのできない歴史的事実です。ところが,今回の東京地裁判決は,そのことすら否定し去りました。幼くして旧「満州」に取り残され,「日本鬼子」と呼ばれ,日本軍の犯した罪を一身に背負いながら,別れた親を思い,あたたかい祖国の懐に抱かれることを夢見て,中国の地で懸命に生きてこられた「残留孤児」の苦難の人生への思いやりがひとかけらもありません。終戦後40年以上もたって,やっとの思いで帰国した祖国での冷たい施策に対する批判的視点は全くなく,「政府や国会の責任で解決すべきだ」という言葉すらありません。
 国には,自国民を保護すべき基本的な義務があるという現憲法下における当然の条理を根本から否定した,歴史的にも,国際的にも,恥ずかしい限りの判決です。

 しかし,2006年12月1日,神戸地方裁判所は,中国「残留孤児」の被害は「自国民の生命・身体を著しく軽視する国の無慈悲な政策」によるものだと述べ,中国「残留孤児」の方々の被害に対する国の責任を明確に認めました。国民世論はこぞってこの判決を支持し,国は戦後60年以上も苦難の人生を送ってこられた中国「残留孤児」の方々が,せめてこれからの人生を安心して過ごせるような解決をすべきだ,控訴をすべきではないと願いました。
許し難いことに国は控訴しましたが,中国「残留孤児」を救済すべきだという世論の高まりの中で,このたびの東京地裁判決は国「勝訴」であったにもかかわらず,判決言渡しの翌日である昨1月31日,安倍総理大臣が全国の原告代表と会って,その苦しみを直接聞いたそうです。

 私たちは,戦後62年にもなる今年,国は「無慈悲な政策」を終わらせ,中国「残留孤児」の方々が心から祖国に帰ってきてよかったと思える解決が実ることを心から望みます。それは,「孤児」の方々の人間としての尊厳を回復すると同時に,国策によって再び幼い子どもが棄てられることがあってはならないという,多くの日本国民の願いにつながるものでもあります。
 私たちはこのような立場から,国民の皆さんと政府に向けて,緊急のアピールをするものです。

2007年2月1日


浅野慎一(神戸大学発達科学部教授)
池辺晋一郎(作曲家)
石坂啓(漫画家)
井出孫六(作家)
井上ひさし(作家・日本ペンクラブ会長)
衛藤瀋吉(東京大学名誉教授)
遠藤誉(筑波大学名誉教授)
岡部牧夫(著述業,歴史研究者)
小川津根子(ジャーナリスト・女性史研究家)
加藤登紀子(歌手)
木下秀雄(大阪市立大学法学部教授)
坂本龍彦(ジャーナリスト)
佐野洋(作家)
澤地久枝(作家)
ジェームス三木(脚本家)
新藤兼人(映画監督)
曾徳深(日本華僑華人連合総会会長) 
宝田明(俳優)
中島茂樹(立命館大学法学部教授)
永田秀樹(関西学院大学司法研究科教授)
仲代達矢(俳優)
羽田澄子(記録映画作家) 
林郁(作家)
人見剛(北海道大学法学部教授)
古川万太郎(元大学教授)
古谷三敏(漫画家)
松本克美(立命館大学法科大学院教授)
森村誠一(作家)
山崎朋子(ノンフィクション作家)
山田洋次(映画監督)
横井量子(演劇人)
渡辺一枝(作家)
渡辺義治(演劇人)

以上34名


※写真は2月1日法曹会館での記者会見
左より遠藤誉、澤地久枝、衛藤瀋吉、小川津根子、山崎朋子、渡辺一枝、井出孫六、林郁 各氏