「報道・表現の自由の危機を考える弁護士の会」から参加した澤藤です。
今、アメリカで、イラクへの軍事行動に反対する運動の先頭に立っているシーハンさんが、納税を拒否して話題となっています。イラク戦争に反対する以上は、その戦費調達の手段としての税金の支払を拒否することが、論理一貫した行動であり、運動としても有効なのだとの判断なのでしょう。
同様の思想や運動は、憲法9条を持つ日本において、以前からあります。防衛予算額相当分の納税を拒否する方、自ら「防衛費相当分控除」を設定して、申告する方はあとを絶ちません。この方たちを良心的納税拒否者と呼んできました。良心的納税拒否訴訟は、かつて華々しく法廷で争われました。
考え方の基本は、立憲主義に基づくもので、国家が国民に義務を課するには、憲法に則ったものでなくてはならない。違憲の行為のための徴税はできない、違憲支出の納税義務はない。というものでした。
さらにこの考え方は進展して、「国民は納税者として違憲の支出をさせない具体的な請求権を有する」という主張となります。
1991年、海部内閣が湾岸戦争に90億ドル(1兆2000億円)の支出を決めたとき、「ピースナウ・戦争に税金を払わない 市民平和訴訟」が提起されました。「主権者は、納税者として戦費支出差し止め請求権を有する」という基本思想でした。
残念ながら、判決では個人の請求権としては採用されませんでした。「良心的軍事費負担拒否」「納税者基本権」とも、実定的権利としては、認められていません。しかし、思想的に、また運動上、極めて説得力のある論理として、多くの人に浸透しました。
NHK受信料についても、同様に考えたいと思います。「良心的受信料負担拒否」であり、「視聴者基本権」の思想です。契約法理に基づくものとして、こちらの方が裁判所にとおりがよい。
NHK受信領支払拒否については、
@ 思想ないしは理念の問題として
A 運動上の有効性の問題として
B 法的問題として
それぞれのレベルに分けて考えるべきかと思います。
放送法は、NHKに対する国民の信頼を基礎とする公共放送の制度を作りました。強制ではなく信頼によって経営が成り立つ制度。この信頼の根幹に政治権力からの独立があることは明らかですから、法は、今日の事態あり得ることを想定していたといってよいでしょう。NHK側に国民の信頼を揺るがす行為あれば、受信料拒否というサンクションが発動されることこそ、放送法が予定した事態であると考えます。考え方や理念のレベルでは、番組改変問題と、その後の対応に表れたNHKの姿勢に対して、大量の受信料拒否が生じていることは当然で、むしろ健全な現象だと歓迎いたします。
では、運動論のレベルでどうするか。何を獲得目標として、どこまでのことをするのか。については、NHKの番組作成の姿勢を全体としてどう評価するかにかかわってくるかと思います。少なくも、NHKに反省を求めて、支払い停止をすることは、有効で道理のある運動だと考えます。
受信料支払いは、税金のような公法上の義務ではなく、飽くまでも私的な受信契約締結の効果としての義務ですから、NHKが原告となる訴訟において問題となるのは、NHKが契約の本旨に基づく契約の履行をしているか否かです。ここで、契約の本旨たる放送とは何かについての徹底的な検証が必要となります。放送法の理念とは何か、NHKの使命とは何か、権力的介入とは何か、番組改変とは何であって、どんなに大切なことであるのか、十分な主張立証を尽くすべき大問題だと思います。
放送法は、目的に「放送による表現の自由確保」「健全な民主主義の発達に資する‥こと」(1条2・3号)を掲げ、「放送番組は、‥何人からも干渉され、又は規律されることがない」(3条)と定めています。安倍晋三や中川昭一など右翼政治家のご機嫌を取りながらその威に屈して番組を改変し、しかもこれを反省しないというのですから、NHKの側に債務不履行があると思います。視聴者が、このような事態でも、唯々諾々と受信料を支払わなければならないという理屈はありません。
いざというときには、堂々と受けて立ちましょう。